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心臓の音が、ライブラリーの静寂を壊しそうなくらいうるさい。
後頭部を引き寄せられ、冬馬先生の唇がすぐ目の前に迫る。
触れる、と思った瞬間に──
──ピピピピッ、ピピピピッ。
無機質なアラーム音が、個室に鳴り響いた。
冬馬先生の動きが止まる。
私も、弾かれたように彼を突き飛ばして立ち上がった。
「っ……あ、あの!先生、アラームが!」
「……チッ。急患の呼び出し通知か」
先生は忌々しそうに舌打ちをすると、眼鏡をかけ直し、一瞬で『外科医』の顔に戻った。
さっきまでの熱い体温が、嘘のように引いていく。
「海老名。……続きは、また今度だ」
そう言い残して、彼は私を置いて疾風のように走り去っていった。
残された私は、真っ赤な顔で自分の唇を指先でなぞることしかできなかった。
(続きって……何!? バカ、先生のバカ……!)
◆◇◆◇
翌朝
私は、昨日どんな顔をして先生に会えばいいのか分からず、必要以上にキビキビと医局で動いていた。
当の冬馬先生は、徹夜で緊急オペを終えたらしく、医局の奥で不機嫌そうにコーヒーを飲んでいる。
「……海老名。今日の外来スケジュールを言え」
冷たい。
昨日のあの甘い声が幻だったのかと思うほど、いつものドSな先生だ。
私は平静を装ってタブレットを開いた。
「はい。午前中は初診が15名、午後は……」
「待て。……その首、なんだ」
「えっ?」
冬馬先生の鋭い視線が、私の首元に突き刺さる。
私は反射的に手を当てた。
「あの、昨日のストール……先生にかけたとき、少し擦れたのか、赤くなってるみたいで……私、肌が弱いんです」
「……こっちに来い」
先生は有無を言わさず、私の腕を引いて診察室の奥へと連れ込んだ。
壁に背中が当たり、彼が私の顔を覗き込む。
「……っ、先生、ここ病院です!誰か来たら……」
「バカか。これは立派な診察だ」
そう言って、先生は意地悪く口角を上げると、赤くなっている私の首筋を親指でゆっくりとなぞった。
「ひゃっ……!」
「声が大きい。……いいか。職場でそんな顔をするな」
「そ、そんなこと言ったって先生が…!」
なぞった指が、そのまま顎をクイと持ち上げる。
昨日の続きを予感させる、熱く、執拗な冬馬先生の瞳。
「海老名、今日の夜は空けておけ」
その時、診察室のドアがノックされた。
「冬馬先生、お時間です」
看護師さんの声に、先生は私を解放し、何食わぬ顔で白衣の襟を整えた。
置いていかれた私は、膝の震えを必死に抑えていた。
ドSで冷酷なはずのこの人が、私を「独占」しようとしている。
その事実に、怖いくらい胸が高鳴っていた。