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美しヶ池の出口、ツルツルとした水路の先まで一気に泳ぎきったナッキはそこに居たウグイに声を掛ける。
「ティガっ! お帰りなさいぃっ! 大丈夫だったぁ? んもう、四日も掛かるとは思っていなかったからさぁ、心配しちゃったじゃないのぉ!」
寝不足で血走り捲っていたナッキの気色悪い表情を受けたティガは、殊(こと)も無い、そんな風情で答えるのであった、気持ち悪くないとは、中々の勇者であったようだ。
「あーそれなぁ! 俺が『澱(よど)み』に辿り着いたのはその日の内だったんだがよ、思ったよりギンブナ達が弱り切って居たんだよなぁ~、んでさ、様子を窺いながらゆっくりゆっくり戻ってきたら、三日も掛かってしまった、って訳なんだわぁー! メンゴメンゴ、ゴメンだぜ、ナッキさん、おっと、ナッキの王様よぉ♪」
ナッキは答えて言った。
「そっかぁ、そうだったんだねぇ? 謝らなくて良いよ、ティガさんっ! 色々キメ細やかな気遣いもさせてしまったみたいなんだね…… 僕的には感謝、感謝しかないからさぁー、さっき責めてるみたいに思わせる言葉を言ってしまった事は謝らせてねぇ、 ……んで、皆はどこに居るのかなぁ?」
ティガはナッキを真っ直ぐ見つめながら答えた。
「ん? 皆ぁ? ああ、そうかギンブナ達な! あいつ等だったらここに繋がる水路の先、滝の下の滝壺で水路に上がろうと頑張っている最中だよ! 俺の短い鰭じゃ抱えて飛び上がってやることは出来ないしな、その事を伝えたらさ、ヒットだっけか? リーダーのヤツとな、メスの中で中心になってるオーリ? とか言うメスが『自力で上がりましょう! この先にナッキが居るのよっ!』とか言っちゃってさ! 多分だけど、今頃必死にジャンプしているんじゃないのかなぁ?」
「な、な、なんだってぇ~! くぅっ! ぜ、是非も無しっ! フンスゥッ! 待っていてねぇ皆ぁっ! 今ナッキが行くからねぇっ!」
この言葉が終わるや否や、ウグイのティガ、『フーテンのティガ』さん、をその場に残したままで、ナッキは全身の鰭を過去に無いほど素早く動かし捲って、池の外の水路を泳ぎ下って行ったのである。
それはそれはこれまで一度も見たことが無いほどの速度、目にも留まらぬ速さ、超速、魚の泳ぐ速度とは思えない言うなれば『神速』とでも呼ぶべき速度であったらしい。(カーサ&サム談)
猛スピードで水路の先の滝壺を目指すナッキの目に、滝壺から上がって来たのだろう二十数個の魚影が映った。
思わずその影に向けて大きく叫ぶナッキ。
「ヒット! オーリ! みんなぁー!」
声に気が付いた魚影は、滝登りで疲れ切っているであろうに、即座にナッキの方へと泳ぎ始め、口々にナッキの名を呼んだのである。
「おお、ナッキぃ! ナッキぃー!」
「ナッキ! 元気だったのねぇ!」
『ナッキ!』
「みんなぁー!」
一層速度を上げて駆け寄りあうナッキとヒット、オーリ、そして同じ年に生まれた若鮒たち。
その距離は次第に近付いて行き、このままハグ的な事が起こるんだろうなぁ、その予想を裏切るように徐々に速度を落として、そして微妙な距離、大体ナッキ二匹分を隔てて向かい合ったままお互いをジッと見つめ合って停止したのである。
若鮒の群れを率いて先頭を泳いでいたのは、案の定、今のリーダーらしいヒットと副官的で世話焼きなオーリであった。
その他のギンブナも二匹に合わせた様に、ポカンと口を開き馬鹿みたいな感じでナッキを見つめているのである。
対してナッキは、今目の前で起こっている現象が理解出来ないままで、微妙な距離感を維持したまま固まっていたが、やがて、控えめな声を漏らすのである。
曰く、
「え、えっとぉー、皆………… 縮んだ?」