テラーノベル
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ギンブナ達の先頭を意気揚々と泳いできたヒットが答える。
「縮んではぁ、いないと思うぞ、ナッキ…… てか、お前…… その体って、何なんだよ? でかくなり過ぎなんじゃないか?」
「あーやっぱりそうなのぉ!」
オーリが震えを湛(たた)えた声で言う。
「で、でも、な、ナッキはナッキじゃない? こんなに大きくて化け物じみていたとしてもね、私達の掛け替えの無い仲間、ナッキには違いないんじゃない? そうでしょ、皆! ナッキよ? 私達の仲間、ナッキなんだよぉっ? でしょう?」
後ろに控えていた銀鮒達はこの声に答えた。
「そ、そうだよ、ナッキなんだから多少怪物っぽくても会えて良かったじゃんっ!」
「そうだよな? 気持ち悪いとか喰われそうだとかそう言う事は一旦置いておこうぜ! ナッキなんだからさ! なっ? お前ってナッキなんだよね? あの、その、本当に? ナッキ? だろ?」
「く、クワバラクワバラ、お助け下さいぃー、お、お見逃しをぉ……」
「ええぇぇー?」
久しぶりに会った仲間たちの言葉はナッキの心を傷付けるのに十分過ぎる物であった。
懐かしい仲間たちは揃って、可愛らしく以前のままな純朴なナッキに恐れを抱いてしまっているようなのだ。
一体何故そんな歪(いびつ)な認識を持ってしまったというのだろうか?
答えは簡単。
デカかったのだ。
若鮒たちの群れで最大の個体は昔通り、最初に孵化したヒットである。
彼の体は大人の鮒、例えるなら教師役だった巨大な鮒と比べても遜色(そんしょく)無いほどの大きさに成長している。
そのヒットと比べた時、ナッキの大きさは種の限界を軽く越えていたのである。
巨大な体躯はヒットの数倍は有ろうかという規格外の物で、割と小さ目の口ですら、昔馴染みの銀鮒達を纏めて一飲みに出来るほどには大きかったのだ。
双眸(そうぼう)もギラギラと光を放ちつつ仲間たちを見回して居り、今にも喰われそうな恐怖を与え続けていたのであった。
何よりも圧迫感を強めていたのは、彼の個性とも言うべき巨大な鰭の存在である。
胸鰭や腹鰭は兎も角、ギザギザと尖った骨が露出した背鰭と尻鰭、更に驚異的な泳力を支えて来た尾鰭は一層巨大なだけでは無く、漆黒に染められ鮒のそれとは一線を画している。
更に全身を覆った鱗といえば、魚類の物とはかけ離れていて、ゴツゴツとした分厚い隆起はまるでワニガメの甲羅の様だったのである。
ヒットはその姿を改めて見つめ直してから口を開いた。
「それにしても…… ナッキだと判ってはいても、流石に、これは……」
「流石に? 何?」
「い、いや、何でも無い、よ」
オーリは涙目に変わっている。
「可哀想なナッキ…… もうギンブナでは無くなってしまったのね…… こんな姿、もうモンスターじゃないの……」
「お、オーリ? 今、君、物凄い事言ったよ…… 酷いや……」
オーリの正直な評価を聞いたナッキの表情が判りやすく曇った時、一匹のギンブナが群れから泳ぎ出て、ナッキを庇う様に浮かぶと仲間たちに振り返って言う。
「皆なんて酷いことを言うんだ! ちょっと見てくれが醜く変わった位で(ぐさっ!)、仲間を奇異な目で見るなんて、そっちの方がナッキの姿より(ぐさっ)ずっと恥ずかしい事だよ! 確かにナッキは変わった…… でもそれは大きさと見た目だけだろ? さっきからの話し方を聞いていれば判るじゃないか! ナッキの心は僕たちと一緒に過ごしていたあの頃のままなんだ、と思う! 良いかい? 確かに姿は奇妙で(ぐさっ!)醜悪で(ぐさっ!)凶暴そう(ぐさっ!)だけど、心、中身は僕たちの掛け替え無い仲間、優しくて素直で誰よりも頑張り屋だった、ナッキのまんまじゃないかぁ!」
「き、君…… っ! ぺっ!」
途中まで心を抉られ続けていたナッキだったが、その鮒が終わり辺りで叫んだ言葉に感動し思わず息を呑んだ。
息と同時にうっかり吸い込んでしまった鮒を慌てて吐き出してから言葉を続ける。
「あれ、君はあの嵐の夜に流されちゃって僕が連れ戻したおっちょこちょいのサニーじゃないか! 僕の為に一所懸命に言ってくれて嬉しかったよ、ありがとう! 元気だった?」
「う、うん、たった今食い殺されそうになったけどね、それまではお蔭で元気だったよ……」
満面に恐怖の色を浮かべてナッキから距離を取ったサニーに代わって、ナッキの前に進み出たのはあの頃いつも一緒に過ごしたヒットとオーリの二匹であった。
「確かにサニーの言う通りだぜ、すまなかったなナッキ、びっくりしちまったんだ…… これからもよろしく頼むな、まだ俺たち親友だろ?」
「ヒット」
「そうね、大きさに驚いてしまったけど良く見れば、往時のナッキの面影が僅(わず)かだけれど見て取れるものね…… 貴方はナッキよ! 胸を張って! ほら皆も良く見て? こ、れ、は私達のナッキなのよ! ナッキなの、コ、レ、…… うっ、ううう」
「オーリ…… 君こそ、変わったね……」
「ナッキ、オーリは最近こうなんだよ…… 婚姻期がな、近付いて、その、不安定なんだよ」(ボソッ)
「こ、婚姻期? じ、じゃあ、えっとぉ、ヒット、君と?」(ボソッ)
「ま、まあな(照)」(ボソッ)
「へー♪」(ボソッ)
ナッキにとっては綺麗なオーリは憧れそのものだったし、同時に強くて大きなヒットも又、同性として憧れの対象であった。
謂(い)わばヒーローとヒロインが結ばれて、愛の結晶とも言える子供達がもう直誕生するかもしれない。
不意に齎(もたら)されたこのニュースに、ナッキは何故か踊りだした胸のどきどきが抑えられなくなってしまっていたのだった。
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