家に帰ると、阿部ちゃんが机に突っ伏して寝ていた。
いつもなら片付けてある勉強道具も全部そのまま。台本も置いてあった。
最近は撮影続きで疲れているんだろう。それでもこうして勉強を欠かさない様子は素直に尊敬するし、でも恋人としては少し休めばいいのにという気持ちにもなる。
ただ特に今日は、どんな顔をして会えばいいかわからなかったから寝ていてくれて内心ホッとした。
ほんの少しずつ、業界内で俺と阿部ちゃんの特別な関係が知られるようになった。
ほとんどの人は祝福して不必要に口外しないでいてくれるけど、たまに阿部ちゃんの身体の具合を聞いてくる失礼な人なんかもいる。
そんなの男女の付き合いで聞いたらセクハラだろと思うけど、男同士だからナメられている。
そして今日ついに大先輩とも呼べる人に『俺にも1回やらせろ』と持ちかけられた。
逆らうなんて以ての外。万が一断れば、グループ自体どんな扱いを受けるかもわからないような影響力のある人だ。
🖤「本人の気持ちもあるので…」
まで言ったら、小突かれた。
『バカ、お前がセッティングすんだよ』
つまり、俺主導で騙し討ちにしろと言うこと。
怒りで全身の血が煮えたぎるかと思ったけど、どうする事もできなかった。
💚「めめ、お帰り」
阿部ちゃんの声がして飛び上がる。
🖤「…ただいま……起きたんだ」
💚「ん、知らない間に寝ちゃってた。やっぱりもうちょっと睡眠ちゃんと取らないとだめだね」
椅子から立って伸びをしてから、俺のところへやってくる。
💚「遅くまで大変だったね、今日どう…」
🖤「阿部ちゃん」
言葉を遮った俺を、驚いたように見る。
🖤「…あのさ、◯◯さんいるでしょ」
💚「うん」
🖤「今すごく良くしてもらってて、今度阿部ちゃんも一緒に食事においでって」
💚「えっ!そうなの?嬉しい」
何も知らない阿部ちゃんは花のような笑顔を見せ、反対に俺の胸の中はヘドロみたいにドロドロとどす黒く渦巻いて重苦しい気分になる。
🖤「今度の土曜日に」
💚「すごい、楽しみ」
シャワーしてくるねと離れ、洗面室でタオルを噛みながら悔しくて悔しくてひたすら泣いた。
あぁ。
俺は今恋人を嵌めた。
コメント
8件
ねぇめめ!!キレるよ!?
笑ってしまって最悪!!って叫んじゃったw