「……ん」
リビングのテーブルに全員で座る。久しぶりに開かれる家族会議の為に。旅行の日程を決める時以来の話し合いだった。
隣の席には妹、向かいの席には父親と親がそれぞれ着席。いつもと違うのはそこに更に1人プラスされているという点だった。
「え~と、突然だとは思うけどこの家で女の子を1人預かる事になりました」
緊張感を抱いていると母親が喋り始める。とんでもない内容の台詞を。
「この子ね、かれんちゃんって言って母さん達の知り合いの子なの」
「知り合い…」
「いろいろ事情があって話せば長くなっちゃうんだけど、とりあえずこれから仲良くしてやって」
「いやいやいや…」
「むぅ…」
痴漢騒動の後、泥棒扱いをしてしまった女の子から詳しい事情を聞く事に。どうやら母親が自宅の鍵を貸したようで一足先に帰ってもらっていたんだとか。
彼女を自宅へ招いたのは晩御飯をご馳走する為でも、一緒に遊ぶ為でもない。この家で共同生活をする為だった。
「とまぁ、驚かせちゃってごめんね。ちゃんと前もってアンタ達にも話しておけば良かったんだけど」
「……本当だよ、ビックリしたじゃないか」
「悪かった悪かった」
自分も香織も今回の件については何も聞かされていない。女の子がうちにお世話になる事が決まったのは急で、ハッキリと確定したのは今日の昼間だったらしい。
「もっと早くに分かってたらアンタ達にも教えてたんだけどね」
「せめて一言ぐらい相談しようよ。こんな大事な話を勝手に進めちゃうなんて」
「母さん達だってトントン拍子で驚いてるのよ。2人に連絡する時間も無かったし」
「いや、けどさ…」
場の空気が明らかに気まずい。和やかとは正反対の雰囲気に覆われていた。
言葉を交わしながらも女の子の方に意識を向ける。知らない人だらけの場所に置かれているからか塞ぎ込んだ状態で沈黙していた。
「で、何か質問ある?」
「そりゃ、ありまくるよ…」
異常事態なのに母親はあっけらかんとした態度。肝が据わっているのか、ただ無神経なだけなのかは不明だが。
「どうして急にこんな事になったの?」
「ん~、かれんちゃんのお母さんが仕事で海外に行く事になって。それでしばらくうちで預かる事になったってな感じ」
「他の家族は?」
「いないわよ。2人暮らしだったから」
「……そうなんだ」
どうやら彼女には父親がおらず兄弟姉妹もいないんだとか。それはまるで数年前の自分や香織と似たような境遇だった。
かといって無抵抗で来客を迎え入れる事は出来ない。戸惑いが消極的な精神を大きく動かした。
「ならこの子はこの家に住む事に反対していないの?」
「はぁ?」
「だって他人の家だよ? 普通なら抵抗あるんじゃないかな」
咄嗟に思いついた口実を口にする。なるべく女の子を傷つけないような言葉を選びながら。
彼女だって親元を離れて暮らすのは嫌だろう。まだ学生で未成年なわけだし。
そしてそれ以上に知らない人の家にお世話になる事は苦痛なハズ。同世代の男子がいる場所なら尚更だった。
「かれんちゃんも最初はうちで住む事に遠慮してたんだけどね。ただ事情が事情だから…」
「本人が嫌がってるなら無理に連れて来る事ないじゃないか」
「でも他にアテがないのよ? うちで預かってあげなかったら路頭に迷う事になっちゃう」
「それは……確かに困るね」
さすがに10代の女の子が1人で生きていくのは辛い。まだ高校も卒業していないのに。
「だったらお母さんと一緒に海外について行くのは?」
「無理よ。それが出来ないからこうやってアンタ達に協力してもらうんでしょうが」
「う~ん…」
子供を1人残して出張に行ってしまうとはどんな親なのか。会った事はないが白状な印象が強く浮かんできた。
「香織は? やっぱりかれんちゃんがこの家に住む事には反対?」
「え? 私?」
「うん。嫌なの?」
「私は別に平気……かな」
「ちょ…」
次の言い訳を考えていると母親が隣に視線を移す。娘に意見を求めるように。こちら側への賛同を期待していたが彼女の口から発せられたのは肯定を示した言葉。お客さんがいる手前の見栄だった。
「じゃあ突然で戸惑うとは思うけど、そういう事で宜しくね」
「……えぇ」
結局いろいろな反対意見は出してみたものの提案を覆す事は叶わず。腑に落ちないまま話し合いは終了。
父親は着替える為に自室へ。母親はキッチンへと入っていった。
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