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「さのじんは”ガチ”」
「特大さのじんありがとう」
自分たちの動画アカウントのSNSを開けば、嫌でも目に入る言葉。その言葉の意味を知った時は、背中を刺されたような冷たい衝撃が走った。
世界に、自分たちの秘め事が明かされたのかと思って。
いつからかわからない。
最初は、ベッドを使ったパフォーマンスがある曲で、まるで”そういったこと”を連想させるフリに、知らず知らずのうちに昂ってしまったそれを勇斗にそっと指摘され、そういったことの処理がわからずに戸惑っている仁人の手を引いて、誰もいないシャワールームで、処理の仕方を教えてくれた。他人の手によって与えられる快感と、彼の熱い視線が忘れられずに、それからも度々彼とは練習やライブの終わりに人目を避けてシャワールームや人のいない控え室で行為を重ねた。思春期から”アイドル”として清く正しくあることを求められた少年たちの抑圧された青い衝動は、箱を開けたら最後、手で慰め合うだけだったのが、口を使った行為になり、そして「男同士はここを使うんだって」と秘やかに後ろに伸ばされた手によって、挿入を伴う行為になるまでに、時間はかからなかった。
その関係を「セフレ」と呼ぶのだと知ったのは、少し前の話だった。
「やだっ……」
「どうしたのじんちゃん、最近ノリ悪くない?」
都内一等地のタワーマンションの一室。通い慣れたそこに呼び出されて、友達、あるいは兄弟のように一緒にご飯を作り、仕事の話をして、彼のインスタ投稿用の写真を撮りあったりして、風呂に入る。それから、普段は閉じられた彼の寝室に踏み入れて、上等なベッドへと手を引かれて組み敷かれる。どうせ暴かれるのに、いつも律儀にインナーと寝間着を着込むことを笑われる。そういうところも可愛いんだけどね、と。手がインナーシャツの中に侵入し、這い回る。その感覚に小さく震えて、そして、ふと、動画アカウントのコメントを思い出して、ハッとした。その時にはすでに、今まで滅多に出したことのない、拒否の言葉が口に出ていた。
「最近ヤっても上の空って感じだし、気持ちよくない?」
眉根を寄せて、首を小さく傾ける、叱られた子犬のような顔。それを太陽を背負ったような精悍な顔立ちのこの男がやるのだから、狡いと思う。あざといのはどっちだと叫びたくなる。
「そういうわけじゃない、けど……」
「けど、何?」
彼の手は以前、仁人の肌に触れたまま。大人しく話を聞くふりをしながら、この行為の再開を待っている。
「さ、さのじんはガチだって、み!るきーずのみんなが言うから、みんながこのことを知ってるんじゃないかって思って……いや、そんなわけないんだけど、みんなにバレてるみたいで、なんかいたたまれない……」
途中で耐えきれなくなって、両手で顔を隠しながら明かす。
少しの沈黙があって、ふと、仁人を覆っていた大きな影が無くなって、手をどけると、勇斗が上体を起こしてベッドに座り込み、スマホをいじっていた。呆れられたのかも。でも、今日はシないで済む。そう、胸を撫で下ろした。
なのに。
「ふぅん。さのじんねぇ。確かに最近ヤバいよな」
それが表すのは、ここにいる2人のことなのに、まるで他人事のような平坦な声と表情で、スマホ画面を見ながら指をスワイプさせている。
「『さのじん本当に付き合ってる』、『はやちゃんの仁人くんを見る目がガチ』…だって。ははっ、どういう目なんだろ。あ~この時の顔ね。確かに仁人美味しそう~とは思ってたけど」
「ちょっとやめろって…!!そんなの…!!」
あろうことか、ファンのコメントを読み上げはじめた勇斗の手を慌てて掴む。 けど、その手をぎゅっと握り返されて、再びシーツの海に押し倒された。
「ははっ、仁人顔真っ赤。あーヤバい。 俺たちの今の顔み!るきーずが見たらなんて言うんだろうね」
「っ…!!悪趣味すぎる!!」
「ほんと可愛いね、じんちゃん」
仁人に覆い被さる男は、眼はギラギラと輝き、舌なめずりをして、欲望を露わにしている。この顔をされると、自分はライオンの牙にかかったうさぎのような気分になってしまって、もういっそ早く食べてくれとすら思ってしまう。今はだけは、2人の名前も立場も世間の声も忘れて、全てを明け渡したくなってしまう。
そういう気持ちにさせてくれる、この行為が、関係が好きだった。
けれど、今日はそれをこの男が許さなかった。
「みんな俺たちがこういうことしてるの、想像してるのかな」
「ヤダっ、言わないで……!!あっ、あっ…」
「み!るきーずの頭の中で、お前、どうなっちゃってるんだろうね」
「ダメッ、イヤっ……」
「まっ、本物のエロさには敵わないんだろうけど」
10年の月日を重ねて、仁人のイイところを的確に知り尽くした、あるいは開発しつくした彼によって休みなく与えられる快感に溺れながら、彼の言葉に身を震わせた。
「あ、今ここキュってした。興奮したんだ。かぁわいーね。じんちゃん」
「んあっ、ちがっ………あぁっ!!」
「じーんと?ちがくないでしょ?」
奥を突かれたまま、胸の尖りを叱りつけるようにキツくつねられると堪らない。ハッ、ハッと犬のように喘いで、舌を出して求める。
「もうイキたいんだ。イく時にチューしたいの、可愛すぎ。ほら、なんて言えばいいかわかる?」
意地悪な顔。恐ろしいほど整った、美しい顔。人気者。主人公。それが、今だけは自分だけを見ている。それが、嬉しくて、後ろめたくて、怖い。
「んっ、好きっ。勇斗っ、はやとのセックス、好きっ……!!」
「……はッ、エロ…可愛すぎる……」
彼の大きな口に塞がれて、熱い舌に口の中を蹂躙され、明確に”ナカ”に出すことを目的とした自分本位な腰使いにもう何も考えられなくなる。全身で彼と溶け合って、ひとつの生き物になっている、最高の瞬間。
「あッ、アッ、…イクっ、イっちゃう……!!」
「ッ……!!じんとっ……」
スキン越しの彼がビュクビュクとナカに注がれると同時に、重ねられた唇に彼の何かしらの言葉が飲み込まれていった。
「じんちゃんはなんか悩んでるみたいだけど、俺はこの関係辞める気ないから」
シャワーを浴びて、替えたシーツの上で仁人の横に寝転びながら勇斗が言った。
「昔みたいに公共のシャワールームとか控え室でヤってるわけじゃなくて、俺の家でヤッてるんだから、バレるわけなくね?」
「そういう問題じゃないだろ……!!」
隣で寝ている勇斗を睨みつける。
「わーってるよ、うさぎくらい繊細なじんちゃんのハートの問題なんでしょ?でもさあ、こんだけの頻度でヤッといて、急にゼロになっちゃったら、お互い辛くない?」
「それは……何とかなるだろ、まあ」
そもそも仁人は勇斗に教わるまで、ろくに自己処理もしたことがなかった。あれから10年以上経つが、自分は元来性に淡白なはずだ。しかし、隣の男は違った。ぐっと仁人に顔を寄せる。
「何とかって?どうやって?俺の性欲の強さ知ってるでしょ?じんちゃん知っちゃったら、もうオナニーで処理とか有り得ない。共演した女優お持ち帰り、とか六本木で夜遊び、とかしまくっちゃうかも。んで、週刊誌に撮られちゃうかも」
「は?お前何言って……お前がそんなことする訳ないだろ」
心の底から佐野勇斗という男の清さを疑わない大きな真っ直ぐな目。その目に少しの罪悪感を感じながらも、勇斗は言い募った。
「いーや。するね。絶対する」
「しないって!!」
「する!!マジでしちゃうから!!」
「やめろよ!やっと俺たち、ここまで来れたのに……!!」
勇斗のTシャツをぎゅっと掴み、大きな目が悲壮に潤んで見上げる。庇護欲と同時に嗜虐心を煽る目に、勇斗は思わず喉を鳴らしそうになる。
「やめて欲しかったらさ、これからも仁人で処理させてよ」
わかるよね?リーダー。
顔を寄せて、耳もとで囁けば、彼はビクリと体を震わせて、それから小さく頷いた。
コメント
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うわ、これはまたすごいの読んじゃった…! アイドル同士の秘密の関係、しかもバレるかどうかのスリルと、ファンの“さのじん”コメントで煽られる緊張感が生々しくてめっちゃ刺さったわ。 勇斗の「俺は辞める気ないから」って押しの強さと、仁人の抗えなさのバランスが絶妙すぎる。最後の「仁人で処理させてよ」の台詞、卑怯だよなあ…でもこれが二人の関係性なんだろうな。 続きが気になる!Mkさん、この世界観めっちゃ好みです🔥
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