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冨塚(とみづか)小学校では、4年生の夏休み前の時期に野外活動の一環で『青年の家』と呼ばれる宿泊施設に泊まることになっていた。その場所は人里から離れた山奥にぽつんと立っており、あたりには山と森しかないので、生徒からはあまり好かれてはいなかった。
玲子「はあ。あたし、もういや。なんで暑いときに、わざわざこんな山の中に行かないといけないの? こんなところにいたくないわ」
志保「玲ちゃん、しっ! 先生に聞かれちゃうわよ!」
玲子「別に。聞かれてもいいわよ」
志保「そんな……」
綾香は、そんな玲子たちのやりとりを遠巻きに眺めてながら、志保は悪い子じゃないんだから、玲子なんかと付き合わなければいいのに、と思っていた。
玲子「ちょっと、厚、ただでさえ暑苦しいんだから、あたしの目にうつるところにいないで!」
厚「そ、そんな、むちゃだよ……」
厚は少しどんくさいところのある太った少年で、玲子に目をつけられ、よくいじめられていた。もっとも玲子に言わせると、「別にいじめてない、単に厚が嫌いなだけ」だそうだ。
教師「えー、この『青年の家』の裏手には、『蟲塚』と呼ばれる塚があるんですね。それで、『青年の家』を利用する人は、この『蟲塚』にお参りすることになっています。ということで、これからみんなでお参りに行きます」
『青年の家』の裏手には森が広がっており、その中の細い道をしばらく歩くと広場のような開けた場所にたどり着く。そこに『蟲塚』と刻まれた石塔があった。
教師「ええ、みなさん、この『蟲塚』には、こんな言い伝えがあります。昔、このあたりに住んでいたお坊さんが、ある女の子に恋をしました」
生徒「お坊さんなのに?」
教師「まあ、人間ですからね。そういうこともあります。それで、お坊さんは恋に悩み、病気になってしまいました。死ぬ前に一目だけでも、恋した女の子に会えないかと思ったのですが、相手の女の子のお父さんがそれを許さなかったんですね。というのも、相手の女の子というのが、まだ10歳くらいの小さな女の子だった。お父さんとしては、ちょっと娘と会わせたくなかったのでしょうね。結局、お坊さんは相手のお父さんのことを恨みながら亡くなったそうです。それから数日後、あたりに虫が異常発生したそうです。特に、例の女の子の家の周辺がひどかったそうで、人々はなくなったお坊さんの祟りに違いないと噂したそうです。そこで、そのお坊さんの霊を慰めるために建てられたのが、この『蟲塚』というわけなんですね」
玲子「(小声)なにそれ。ロリコンじゃん。虫ってのも気持ち悪いし」
教師「そんなわけで、お坊さんの霊を怒らせないよう、この『青年の家』を使用するときは、かならず『蟲塚』にお参りをしないといけないんです。ではみなさん、しばし黙祷をしましょう。黙祷!」
一行は蟲塚の前でしばし黙祷をささげ、それから『青年の家』に帰っていった。帰り道、綾香は森から吹く風が変に生暖かく、まるですぐそばで誰かがはぁはぁと息を吹きかけてきたような、妙な気持ち悪さを感じた。
綾香「(さっきのお坊さんの話を聞いたせいかな……?)」
教師「えーと、お参りもしたことですから、しばらく休憩時間にします。ただし、『青年の家』の敷地からは出ないようにね!」
『青年の家』は、山の上にある宿泊用の3階建ての建物が中心であり、その周りがフェンスで囲まれていた。建物の裏手には森が広がっていて、正面は運動場のような広いスペースがあった。そこで夜は花火をしたりするのだが、遊具があるわけでもなく、ただ何もない土地が広がっているだけなので、休憩時間と言ってもぶらぶらとそこらへんを歩く以外にすることがない。
そんな中、玲子はみんなから離れ、宿泊棟の裏に回ると、フェンスによじのぼった。
志保「やめなよ、玲ちゃん! 危ないよ!」
玲子「自由行動って言っても、フェンスの中ぐるぐるするだけじゃつまんないじゃん」
志保の制止を気にもとめず、玲子はフェンスを乗り越えると、森に足を踏み入れた。森の中には道があり、そこをしばらく歩いていると、少し開けた場所に出た。
玲子「あっ、なんだ、ここさっきの場所じゃん」
そこは、先ほどの蟲塚の前だった。
玲子「なんか、おもしろいものでもあるかと思ったけど、なんもないじゃん、結局」
と、そのとき、後ろの方から、
志保「玲子ちゃ~ん、どこ~」
と、志保が呼ぶ声が聞こえた。
玲子「こっちよ。……結局あんたも来たの?」
志保「だって、玲ちゃんを一人にするわけにはいかないじゃない」
玲子「ふん。……結局、ここなんもないから、帰るよ」
そうやって二人が戻ってくるとき、まじめな性格の里奈という女の子に見つかってしまった。
里奈「あなたたち、なにしてるの! 『青年の家』から勝手に外に出ちゃだめでしょ!」
玲子「はっ? 別にいいでしょ」
里奈「だめに決まってるでしょ! それに、こんな森の中に入っちゃ危ないじゃない」
玲子「え~。べつにいいじゃん。ただの森だよ?」
里奈「それでも、先生に言われたでしょ! とにかく、このことは先生に報告しておくからね!」
玲子「何よ、里奈のやつ、まじめぶっちゃって!」
その結果、玲子と志保は先生から怒られることになってしまった。
教師「玲子さん、志保さん、ちょっと来なさい!」
玲子「なんですか? あのぐらいで怒られるなんて心外なんですけど」
教師「『青年の家』から外に出ちゃダメって言ったでしょ! それに、里奈さんが見ていなかったら、もっと大変なことになっていたのよ!」
玲子「チッ」
志保「……すいません」
教師「志保さんもよ! あなたも一緒になって森に入ろうとするなんて。何かあったらどうするの!」
教頭「まあまあ、今回は二人とも反省しているようですし、それぐらいで許してあげたらどうです」
教師「教頭先生! しかし……」
教頭「あまり叱ってばかりでもね、生徒が反発して、逆に言いつけを守らなくなることもありますから、ねぇ」
教師「はあ……。まあ、教頭先生がそうおっしゃるなら。二人とも、もう森に入っちゃだめですよ。わかったらもう行きなさい!」
玲子「は~あ。なんなの、あの里奈ってやつ」
志保「しかたないよ、玲子ちゃん。言いつけ破ったのは私たちなんだし……」
玲子「いーや、絶対里奈に仕返ししないと気がすまない……。あっ、そうだ、いいこと考えた! ねえ、志保、今夜………よ!」
志保「えっ? えっ? ちょっと、そ、そんなの、ダメだよ~」
玲子「いいから! 里奈のやつ、今夜が楽しみね」
(続く)