涼成哉は山と海に挟まれた町で育った。
都心からはだいぶ離れているが、平和で殆どが顔見知りの田舎町で暮らしていた少年だ。
夏は歩いて十分程で出れる海沿いで釣りをしたり、春は植物に詳しい母と山へ山菜を採りに行くこともあった。夕方には、静かに、静かに日が傾いていく。そして夜を待てば、星の絨毯が空に敷かれるのだ。
「母さん、ただいま!」
「おかえり、成哉。今日は早かったわね」
学校から帰れば専業主婦の母がいて、夜になれば父が仕事から帰ってくる。平凡だけど、そのぶん暖かい家庭だった。
「今日は部活なかったから。早く帰れるって最高!」
中学に入って、初めての部活動。忙しいが刺激のある毎日を送っている。
「でもサッカーは好きだけど朝練はキツいなぁ。どうせならパソコン部とかに入れば良かった。ゲームできるし」
「パソコンは必要なスキルがたくさんあるんだから遊べるわけじゃないのよ? そもそも遊べる部活なんてありません。どこだって、自分で決めたからには真面目にやるの」
涼は「はいすいません」と言ってソファに座った。ちょっと愚痴っただけなのに……これが母の不思議なところで、気付けばいつも説教が始まっている。
それはしょうがない。生まれつきテキトーな性格なのだと開き直っていた。
「成哉、今日はお父さん、出張で帰って来ないからね。夜ご飯は早めに食べちゃいましょ」
「そーなんだ……父さん、最近出張ばっかだね。また東京?」
「そう。お土産頼んどいたから期待しましょ」
「わ、絶対どうでもいいモン買ってきそう……」
にこにこしながら話す母と違い、涼は心配していた。言っちゃ悪いが、父はセンスがない。ハワイに行って、日本製の扇子を買ってきちゃうような人だ。
「化粧品とか、これ! ってもん指定した方が良いよ? 父さんに任せたらハズレしかないって。お菓子だって油断できない」
「まぁまぁ、良いじゃないの。……あ、そうだ。近いうちに私も一緒に行くだろうから、その時は悪いけどお留守番お願いね」
「え、何で?」
「まだ内緒!」
内緒。そう言われると尚さら気になる。東京に親戚なんていただろうか?
かなり聞き出したかったが、そこはグッと堪えた。
父は地元の会社で働いてるけど、東京へ出張に行くことがたまにある。最近は特にその頻度が多い気がしたが……特に気にも留めなかった。