でもあたしは被害者でいたくなかった、
だからあの男と寝たのはほんの数えるほどで、彼はあたしを本当に愛してくれていたのだと自分に言い聞かせて、現実を過小評価しようとした
あたしのお腹の中にいた赤ちゃんは天使になった、現実はあらゆるものが毒されていていたにも関わらず、自分の記憶を都合の良いように塗り替えた、15歳で妊娠して中絶して母親は男に走りあたしは見捨てられた
義理の父はあたしを殴った、あたしのせいで母と義父は喧嘩した、優等生だといわれていたのに聖言会から追放された、長老達はあたしを汚れたゴミの様な蔑みの目線を向けた
幼少期に性的いたずらをされた子供は、大人になるにつけ少しおかしくなる、まだ幼くて精神的にも成熟しておらず、自分の意見を持たない子供は大人に強要されたことを健気に受け入れようとする
たとえ自分の感情が嫌だと叫んでいても「君を愛しているからこれは秘密だよ」と言われるとその通りにする
愛情が何かを分かっていないからだ。愛とは強要ではない、そして子供は確かに自分が今されていることは嫌だけど、大人は自分に悪いことをするはずがないと信じようとする。あの当時のあたしは自分の嫌な感情よりも彼の「愛している」と言う言葉に目を向けた。そして他の感情は見ないようにした
時々こうやってパカッとパンドラの箱を開けるようにドロドロしたものが蘇ってくる
とても苦しい・・・でも、もうそれもすぐ終わる。だってあたしはお母さんになるんだもん、もうすぐあたしの赤ちゃんが来てくれる
あたしはあざ笑ってこう言った。好都合だ、母は実家のおばあちゃん家にいるんだ。
計画変更しなきゃ、またゲームのパーツが揃った、あたしの子供の頃の記憶におばあちゃん家の終わらない夏の日や長い夕暮れ時や草の間で鳴くコオロギの声が蘇った
あたしはシャワーを浴びてから髪は乾かさず、濡れたままにして、産後のマタニティパジャマを着た。そして段ボールから新生児の人形を取り出し、白いおクルミでくるむ
さっき見た新生児室でそうしていたように人形にベビーブルーの小さな帽子をかぶせて、男の子だと分かるようにした
そしてテーブルに置いた自撮り用のスマに向かって、人形を抱いてポーズを取った。疲れているけど嬉くてたまらないという表情を作った
きっと赤ん坊を産んだばかりの母親はこういう顔をしてるはず
その何十枚の中であたしの顔はハッキリしてるけど赤ん坊の肝心な顔はぼやけている画像をパソコンに取り込んで、背景を病院の病棟に加工する
我ながら良い出来だ、偽装工作員にあたしはなれるかもしれない
このタイミングで運命は私の見方をしてくれているような気がした、私は窓の夕日を見つめながら言った
「義父が死んだのはおめでたいわ・・・・」
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