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そうして僕たちは少しこじんまりとした、それでも少し大人な雰囲気を醸し出している一つのカフェに入った。
そうしてトラゾーさんはコーヒー、僕はフルーツジュースを頼んだ。
カランとなるベルはひどく落ち着き、流れている音楽は心がリラックスする。
そんなところで飲み物が届くとトラゾーさんは一口飲んでから僕を見つめる。僕は情けないことに少しそれが気まずくてジュースを飲む。
「───で?ぺいんととはどうなんですか?」
ふと投げかけられた質問にビクッと肩が震えるが、僕は声を絞り出すように答えた。
「…特に、状況は変わってなくて。喧嘩した日からは一言も話してないです。」
ちゅーっ、とストローを加えてジュースをごくりと飲む。そうすればトラゾーさんはなるほどねー、と腕を組んだ。
「あ、ケンカの要因とかは?」
笑顔で聞いてくる彼の笑顔に少し困惑したが僕は普通に答えた。…それでも、少し恥ずかしいが。
「…ぺいんとさんと僕たちの動画を見てて。僕がポツンと無意識にぺいんとさんはいいな、って言っちゃってて…。」
うんうんと頷きながら聞いてくれるトラゾーさんに、僕は少し安心してしまう。
「ぺいんとさんはそんな僕を励ましてくれたんですけど…お互いが譲り合いしすぎて喧嘩になっちゃって…。」
なるほど…と口からこぼしてトラゾーさんは目の前にあるコーヒーをごくりと飲む。それに僕は、おしゃれな少し小さめのコップの中に入っているジュースをストローでかき混ぜることしかできなかった。
「───いやでもわかるー…。」
トラゾーさんは少し困ったような微笑みをしながら下を俯いてそう言葉をこぼした。僕はそれにびっくりしてトラゾーさんの方に目を移す。
「ぺいんとって歌上手いし、面白いし、努力家だしで何も勝てるところないんすよねー…(笑)」
「!! そう!そうなんですよ!!!」
トラゾーさんの言っていること全てに僕は共感できて、激しく頷いてしまう。お客さんは少ないけれど、控えめで、それでも興奮しながら頷いた。
「実際、ネタを出すのも撮影するのも編集もぺいんとの実力はすごいし…」
「僕らのボケよりも上回る面白さのボケとツッコミができるんですよあの人!!」
「いやほんとにね。俺だって声かぶることよくあるし…」
「僕もいっつもすべってばっかで……」
トラゾーさんと、どのくらい話したかは覚えていない。それでもすごく話が盛り上がって、熱が入ったのを覚えている。
やっぱり人に話すと、心もだいぶスッキリするし気持ちいい。
話せば話すほど喉が渇いて、飲み物をごくごくと飲んでいけば、いつの間にかストローで吸えるほどの量のジュースは入っていなかった。ストローで根気強く吸おうが、ズコーと音を立てるだけだ。
「あっ、そろそろ帰ります?」
ふと言われたその言葉に、僕はスマホを取り出して時刻を確認すればもうそろそろお昼の時間を迎えようとしていた。
「そうですね、そうしましょうか。」
そうして僕たちは会計を終え、各々帰宅となった。いやぁ、でも少しでも愚痴が吐けて良かっ───
「って、愚痴吐いてねぇぇぇぇぇぇぇえ?!」
愚痴を吐いているように聞こえて、全然ぺいんとさんの実力がすごいという話をしてるじゃないか!!くそっ、あの男の策略にまんまとやられたな…。償いとして今度奢らせよう。
……でも、そうなんだよなぁ。
「勝ち目がないから困ってるんだよ…」