サカナは空を泳ぐのよ。
銀色の体は水面から下へ伸びる日の光を浴びてキラキラと輝いていた。
何もない海の中。
無音が続いていた。
白い水面が嘘のようにずっとずっと真下には暗黒が待っている。
誰もいない海の中。
静寂が支配していた。
月は枯れた。
星はそこにあった。
サカナは星の瞬きを背に暗黒へと近づいていく。
小さな泡たちがぽこぽこと上へ登っていった。
すると大きな塊が静かに沈んでいった。
泡を纏って。
4本のヒレを投げ出したソレは暗黒へと落ちていく。
サカナは知っていた。
あれはニンゲンだ。
とても醜いソレはこの海へ沈んでいく。
完璧な情景だった。
完璧な夜だった。
サカナは酷く絶望した。
そして願う。
来世はニンゲンに生まれないように。
サカナは泣いた。
そして水に溶けていく。
銀色の体を自ら剥がした。
赤い血が細く長く上へ登っていった。
それは儚い痛みだ。
ああ神よ。
ああ星よ。
わたしは罪深い。
わたしは幸せではなかった。
たった今不幸となった。
この完璧な世界を汚された。
この完璧な世界はなくなった。
絶望した。
憤怒した。
そして気づいた。
わたしこそがこの世界の汚点だと。
わたしはわたしが憎らしい。
だからこそわたしは自害する。
そうしてわたしの願いを叶えて欲しい。
来世はニンゲンに生まれないように。
あの醜いニンゲンに生まれませんように。
そうしてわたしは死んでいった。
赤い泡たちを纏って。
沈んでいくソレから目を背けて。
わたしは星へと近づいていく。
星を映した海の空。
辿り着いた頃のわたしを星たちはなんと呼ぶのだろうか。
サカナは空を泳ぐのよ。
でもねひとつだけ罪を犯したの。
それは。
完璧なんかないくせにね。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!