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すぐにカンナとまた会えた。3月の最後の週、晶子と母親は中学校指定の制服や入学準備に必要なあれこれを買うために都心へ行き、午後3時ごろ自宅の最寄り駅に戻って来た。
買い物袋を提げて駅前の商店街を歩いていると晶子が立ち止まって古着屋の中に目を凝らした。母親が振り返って訊いた。
「晶子、どうかした?」
晶子は古着屋の中を見つめたまま応える。
「カンナがいる」
二人で店の中に足を踏み入れると、試着室に入って行く小さな人影がカーテンの向こうに消え、その前に見覚えのある中年女性が立っていた。晶子はそっと近寄って声をかけた。
「あ、カンナのお母さん。こんにちわ」
くたびれたセーターの上にスタジアムジャンパーを羽織ったカンナの母親は、目を見開いて晶子に微笑みかけた。
「あら晶子ちゃん、久しぶり。大きくなったわね」
外出用のワンピースの上にコートを羽織った晶子の母親が、カンナの母親に頭を下げる。
「カンナちゃんのお母さまですね。いつもうちの娘がお世話になっております」
カンナの母親があわてて同じように頭を下げる。
「どうもお久しぶりです。いいえ、うちの娘こそ仲良くしていただいて。どこかへお買い物でしたか?」
「ええ、晶子の入学準備で。制服も買ってきたところです」
試着室のカーテンが開き、カンナが姿を見せた。地元の公立中学の制服を着ていた。濃紺のジャンパースカートにブレザージャケット。特に飾り気もないよく見かけるデザインの制服。
だが、晶子には新鮮な驚きだった。思わず試着室に駆け寄り、それに気づいたカンナが先に言葉をかけた。
「あれ、晶子じゃん。何か買いに来たのか?」
「ううん、カンナがいるのが見えたから来てみたの。わあ、カンナがスカート履いてるの見たの、あたし初めてかも」
「え? ああ、そういやそうかもな。中学からは制服だからしょうがねえんだよな」
カンナの母親が娘の立ち姿を見つめて言った。
「ああ、これでいいだろ。これならそれほど痛んじゃいないし」
カンナは袖の先を見せて不満そうに言う。
「母ちゃん、ちょっとブカブカなんだけど、これ」
「あんたは今から体大きくなるんだから、大き過ぎるぐらいでちょうどいいんだよ。毎年買い替えるなんて贅沢はできないんだからね」
「ちぇ、分かったよ。じゃ、着替えっから」
カーテンがまた閉まる。晶子の母親が遠慮がちにカンナの母親に尋ねた。
「公立の中学校は、こういうお店が指定の所なんですの?」
カンナの母親は少し顔をそらすようにして答える。
「今年卒業した生徒が売っていくんですよ。それを新入生の親が買うんです。新品を買ってやるなんて、うちみたいな家じゃ無理なもんで」
カーテンがまた開いて、ジーンズにセーター姿のカンナが制服を手に持って出て来た。カンナの母親がそれを受け取ってレジに向かう。
カンナは晶子の側へ寄って来て、晶子と母親が下げている買い物袋を見つめた。
「晶子も制服買ったのか?」
「うん、デパートで買って、帰ってきたとこ」
「晶子の学校の制服ってどんなやつ?」
「冬服はブレザーとスカート。夏服はブラウスとスカート」
「いけてるデザインなんだろうなあ。あたいの行く中学のって、ダセえんだよな。それにスカートって苦手だよ。下がスースーする」
大きな紙袋を提げたカンナの母親が後ろから寄って来て、カンナの頭をポンと叩く。
「いつまでも何言ってんだい。もうちょっと女らしくなりな。ほれ、晶子ちゃんはこんなに女の子らしくなってんのに」
カンナは頬をふくらませて口答えした。
「晶子はあたいとは育ちが違うんだよ。あたいのは親の遺伝だろ?」
「まったくもう、口の減らない馬鹿娘だねえ」
四人で店の外へ出る。カンナ親子はまだ買い物があるというので、そこで別れた。反対方向に歩き始めてしばらく経って、晶子がまた立ち止まった。不思議そうな顔でカンナの背中を見た。晶子の母親が尋ねる。
「晶子、どうかした?」
「ううん、何でもない」
晶子は母親と並んでまた歩き出す。晶子はその時になって、カンナが自分を「オレ」ではなく「あたい」と呼んでいた事に気づいた。
コメント
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カンナの「あたい」に気づくラスト、すごく刺さりました。デパートで新品を買ってもらう晶子と、卒業生のお下がりを買うカンナ。同じ春なのに、こんなに違うんだなって。ブカブカの制服に文句を言いながらも、お母さんの事情を分かってるカンナの健気さが切ないです。スカート苦手発言も可愛かった。二人の距離が少し縮まった気がして、ほっとしました。次が楽しみです。
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グリルタ
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