私が射抜くように言うと、アルベルトはしばし
プログラムの不具合でも起きたかのように逡巡するそぶりを見せた。
そして結局は私の指示に従い、黙って椅子を引き、そこに腰掛けた。
ダイキリが「すみません、アルベルトさん……私、不謹慎に、ワクワクするとか言っちゃって」と、申し訳なさそうに謝罪した。
その時、不意にアルベルトが重い口を開いた。
「いいんです。それに……私は確かにかつて、”痛い”と感じたことがあるのかもしれない」
他人事のように淡々と、事実を報告するだけの声。
だが、その声音の端々には、これまで決して存在しなかった僅かな揺らぎが、細い亀裂のように宿っていた。
額を抑えながら、苦しそうにアルベルトは続ける。
「記憶の片隅にあるんです……ある日目が覚めると『君は今から器になれる』『すぐ終わるから』と言われて、それが何日も続いたような……」
「まるで、終わりのない悪夢を見ていたような。ハッキリとした光景は思い出せませんが……あのテープの少年は、きっと私です。……ですが、私はそのとき『私』だったのか、分かりません。……それを聞いていると、とても気色が悪い」
「……そう。前よりは良いみたいだけど、まだ不鮮明なままなのね」
私は小さく呟きながら、アルベルトの隣に腰を下ろした。
膝にかけさせた厚手の毛布。
その端を握る彼の指先が、自分でも気づいていないのか、微かに震えている。
「アルベルトさんが辛そうで、見ていられません……。前も、こんなひどいものを聞いていたんですか……っ?」
ダイキリが泣き出しそうな顔で、私たちの顔を不安げに見比べる。
「……ええ。アルベルトの言葉を借りれば、彼は生まれながらにしてクロムウェル家の人間じゃないみたいだけど……」
「さっきのテープのような仕打ちを受けていたということは、今、たった今分かったことよ」
「え? ク、クロムウェル家の人間じゃないって……誘拐されたってことですか?」
「分からないけれど、何らかの理由で、スラムから身柄を買い取られたらしいわ。……そうでしょ、アルベルト?」
「はい。ですから……私の名前は本来アルベルトなどという高貴なものではないということも、最近になって気づいたばかりです。だから私は……『私』という個体を知るために、エカテリーナに協力しているんです」
「……っ、そんな……そんなのあんまりじゃ……」
再び、店内に重苦しい沈黙が沈殿する。






