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雫 -SIZUKU- ~星霜夢幻ーー“Emperor the Requiem”~

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雫 -SIZUKU- ~星霜夢幻ーー“Emperor the Requiem”~

93 - 第93話 急 それぞれの譲れぬ闘い⑥ 攻勢

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2025年07月19日

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対峙する二人の距離は、再び四間(約7m)にまで離れている。だが、距離を一瞬にして零へ詰める事が出来る二人の前では、もはや間合い等何の意味も持たないだろう。



“瞬きしている間に終わりかねない”



それ程までにこの二人の動きは、常人の知覚領域ではその処理が追い付けない。



「貴女のその長巻を振るう速度、そしてその斬撃力には正直驚かせされました……」



ユキは徐(おもむろ)にルヅキに向けて、称賛とも取れる言葉を放つ。



勿論これは本心だろう。



だがその緩やかな言葉の裏には、ある種の余裕も含まれてさえいた。



「今度はこちらから攻めます。次は貴女が驚くーー」



その言葉を最後まで言わせる事無く、ルヅキの長巻がユキを頭部から真っ二つに斬り降ろす。



「きゃあぁぁぁっ!!」



突然の出来事に、見守っていた二人から悲鳴が上がる。



それ程までに、目視も出来ぬ凄まじい速度の一撃。



「油断大敵、たわいもない……!?」



ルヅキは即座に異変に気付く。手応えが無い事を。



「ぐっ!」



その刹那、ルヅキの腹部から掠める様に鮮血が噴き出した。



真っ二つになった筈のユキの身体は、一拍子遅れて薄れ消えていく。



何時の間にかユキはルヅキの背後へと、その背を向けていた。



“――残像だと!? コイツ……先程の事をやり返して見せやがった!”



「ちっ!」



ルヅキは即座に方向転換し、飛び退く様に背後のユキから距離を取った。



ルヅキの腹部への傷は浅い。掠めた程度だから、そのダメージは微々たるもの。だがその紅き瞳には、明らかな動揺の色が垣間見えていた。



ユキは距離を取ったルヅキを追い、即座に攻勢へと転じる。



双流葬舞ーー刀と鞘を縦横無尽に操る、尋常で無い速度に依る流れる様な連撃。



「ちいっ!」



ルヅキもその巨大な長巻を巧みに操り、その連撃を捌き続けていた。



金属が断続的に弾ける様な斬撃音が響き渡る。



先程までとは違い、今度は明らかにルヅキの防戦一方。



捌き続けきれないのか、斬り結ぶ連撃の合間からルヅキの周りを血煙が迸り、その身体に幾多もの切創が刻まれ続ける。



徐々に追い込まれていくルヅキの表情に、戸惑いが隠せない。



「くっ!」



ルヅキは彼のシグレとの闘い。そしてウキョウとサキョウとの闘いを思い返しながら、改めてその順応性に舌を巻いていた。



“この順応能力は尋常じゃ無い”



一度でも実感したものを瞬時にその身に刻み、即座に対応してくるその“天性”に。



レベル差、体格の不利等マイナスアドバンテージ。その如何ともし難い垣根を、特異点は易々と乗り越えてくる。



狂座にとって、余りにも危険な存在。



“だからこそ、此処で確実に仕留めなければならない”



防戦的に捌き続けるルヅキだが、その切創がこれ以上増える事は無い。



崩れた拮抗が再び元に戻る。



ルヅキもまた、その動きに既に対応していたのだから。



「調子にーー乗るなよ!」



ルヅキは繰り出される太刀筋の一つ、その軌道を先読みするかの様に長巻を振り上げる。



刹那、弾かれる様にユキの左腕が天に上がった。



鞘こそ手離す事無く握りしめたままだが、その衝撃で痺れた様に動かぬまま。ユキの双流葬舞は鞘を支点にした斜の構え。その為、狙われたのだ。



そして振り上げられた長巻は、即座にユキの頭上へと振り落とされる。



この刹那の瞬間、鞘と刀による受けは間に合わない。



ユキは痺れて動かぬ左腕を防御から捨て、右手に持つ刀のみで、振り落とされる長巻の巨大な刃先を受け止めた。



「無駄だ! 片手如きの不充分な防御等、刀ごと叩き斬ってくれる!」



重くのし掛かる圧力。刀と鞘で全神経を防御に集中しても、受け止めきれないその斬撃力。



一刀では、もろごと巻き込まれるのが必定。



「ーー何っ!?」



不意にルヅキの手から、長巻の刃先から伝わっていた手応えが消えた。



“――流した……だと?”



そのままその巨大な刃先は、地面を抉る様に激突する。



その衝撃は地に亀裂が入り、伝わった振動で大地を揺るがす程。



一体何が起こったのか。地面に長巻を振り降ろしたままのルヅキと、その横で無傷のままのユキの対比。



ユキは長巻の刃先が己の刀に激突したあの瞬間、その力に反発する事はせず、刀を滑らせる様に横に受け流していた。



だが、それはコンマ何秒の世界。



人間の動体反射速度では仮に頭では理解出来ても、その加速した領域では身体がその反応に追い付けない。



「馬鹿な……」



ルヅキは捉えられなかった長巻の刃先を見詰めながら、改めて特異点の全知覚領域が、別次元に棲息している事を痛感していたのだった。



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