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**『氷と火の間で』**無限城の奥、冷たい空気が漂う一室。
淡い光が障子の隙間から差し込み、静けさの中にただ二人の鬼の気配だけが存在していた。
「アカザ殿〜、今日も無愛想だなぁ〜。そんな顔してると、ますますシワが増えちゃうよ?」
童磨は扇子を口元にあてながら、いつものように軽やかに言葉を投げかける。
「……黙れ、童磨。俺は貴様の茶番に付き合う気はない」
猗窩座は背を向けたまま、腕を組み、壁際で目を閉じている。
けれど、童磨はその無反応すら楽しげに受け止める。
「でもさぁ、昨日のこと……忘れたの?ほら、あの夜。君、珍しく震えてたじゃん。まるで人間みたいに」
「っ……!それを言うな」
猗窩座の頬がかすかに赤く染まったのを、童磨は見逃さない。
「かわいいなぁ、アカザ殿は。戦いの時はあんなに荒々しいのに、二人きりだと素直になる。ギャップってやつだよね?」
「誰が素直だ……!」
怒りを隠しきれず振り返った猗窩座の腕を、童磨はふわりと抱き寄せた。
一瞬のスキを突かれた形だ。
「……離せ」
「やだ。今日は君の冷たさに、俺の愛を注ぎたい気分なんだ〜」
童磨の手が猗窩座の頬に触れる。
凍えるような指先なのに、そこから伝わるのは、妙に熱っぽい感情だった。
猗窩座は抵抗しない。
その代わり、静かに囁く。
「……次に抱きついたら、腕の一本じゃ済まさん」
「ふふっ、それは楽しみだなぁ。愛の証、ってやつ?」
そして二人は、再び沈黙の中で見つめ合う。
氷のような童磨の瞳と、燃えるような猗窩座の視線が、交わる。
その距離が、また少し、近づいた。