テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
去年の冬、私は彼────「ハヤト」とクリスマスパーティをしようと12月24日に彼の家に遊びに行った。
ピンポーン。
1Kの部屋に響くインターホンの音を合図にインターホン越しのカメラで私が映り、声をかける。
「ハヤト〜!開けて〜」
「おー」
ハヤトの部屋に着き、新品の靴を丁寧に脱いで部屋へ上がる。
「お邪魔しまーす」
いつも通り整理整頓された部屋、居心地がいい匂いに包まれる。実に幸せな空間だった。
「今日は夜ご飯食べてくんだよな?」
「うん!」
内心、泊まりたいな…なんて思いながら、そう答えて、いつも通りテレビの前に置かれたローテーブルが目の前にある小さめのソファーに体を預ける。見た目に反してふかふかしていてすごく気に入っているソファー。私も買おうかな。
数分後、キッチンからハヤト手作りのディナーが運ばれてくる。ハヤトは幼い頃から料理が趣味だったらしく、よく私にご飯を作ってくれる。ハヤトが作ってくれるご飯はどれも美味しくて、一生食べたいくらいだった。
「わ〜!美味しそう〜!!」
「だろ?いっぱい食べな」
「ありがと〜!」
そのあとは二人で何気ない話をしながらディナーを食べ、デザートも出してもらって一緒に映画も見た。いつもはホラーばかり見るが今日はクリスマスイブということもあって恋愛系の映画を見た。胸キュンなシーンが多くて、見ているこっちもドキドキした。役者さんってすごいねなんてたわいもない話をしながら映画を見終わったときだった。
「あ、もうこんな時間だね。終電なくなるし、帰る?」
「え?」
てっきりこのまま泊まるつもりでいた私は彼の提案に驚いてしまいました。いつもは結局このまま「泊まる?」なんて言ってくれるから期待していた。クリスマスパーティーだし、クリスマスイブだし、恋人だし、カップルだし。色々理由づけられることはたくさんあるのに、この後に及んで帰るだなんて。私的には少し残念でした。
「え?」
そう返されてはっと我に戻りました。
「あ、いやごめん。てっきりこのまま泊まるパターンかな…なんて思ってた…」
そう言えばハヤトなら「じゃあ泊まる?」とか「あはは!冗談だよ」って明るく言ってくれるって思ってた。期待してた。だけど結果は違った。
「あー、うん。ごめん。今日は帰ってほしい」
そのとき、すごく違和感を覚えた。今日一日、ずっと元気がない。いつもの笑顔が少ない。声色が明るくない。ハヤトに限ってこんなことない、って思いたいけど浮気かなってそう感じました。
「…このあと誰か呼ぶの?」
そう聞いた時のハヤトの顔は呆気にとられたような、寂しそうな、何かを我慢した顔でした。ほんの少しの沈黙の後、ハヤトは俯いたままこう答えました。
「…うん」
私は今の今までずっと気づかなかった、あのハヤトが浮気なんて、とそう深く思いました。そのときの私はその衝撃に耐えられず、浮気と決めつけました。
「浮気するなんてひどい!」
今にも泣き崩れそうな声でそう強くハヤトに言うと、ハヤトは俯いた顔をこちらに向けてしっかりと目を合わせてきた。その表情は私よりも泣き崩れそうな、見るとこっちまで泣きそうな顔で謝ってきました。
「本当にごめん。」
そう言われたとき、私は「ああ、自覚してしまった。」と思いました。このまま何も言わなければ、否定すれば、見直したのに。「あのハヤトが浮気するわけないよね!」って言えたのに。ハヤトは認めてしまった。取り返しがつかなくなった。
私は衝撃に耐えられず、泣くこともできず、ただただ黙って俯きました。
「…アカリ、別れてほしい」
そう告げられた私は、数分の沈黙の後、なんと言ったのかはっきり覚えていませんが、そのお願いを受け入れ、別れました。
カバンを手に持って、玄関口に近づき靴を履く。そのとき、ふと思い出しました。「私今、ハヤトの家の鍵を持っている。」と。本当はそのときに、カバンからハヤトの家の鍵を取り出して置いていけばよかったんです。なのにどうしてもできませんでした。これを置いていけば、これからの生涯私は彼のことを忘れてしまうかもしれない、そう思ったからです。
「お邪魔しました。」
そう告げてそのままハヤトの家を後にしました。
-それから半月後
友達が私の家に来るので、掃除をしていました。すると棚の奥からあの日のカバンを見つけました。
「…懐かし」
彼が私に送ってくれたカバンですもの。あれきり一度も使っていませんでした。なので、あの日の荷物は入ったまま。レシートやあの日、寝る前になったら渡そうと思っていた彼へのクリスマスプレゼント、プリクラ、色々入っていました。そのとき、内ポケットに入っていた固いものに手が触れて、そっと取り出しました。彼の家の鍵でした。あれっきり返せていなかったのです。今になって、「あ、返さないと」と思い、スマホを開いて半年ぶりに彼とのトークを開きました。
『今から行くね〜!🩷🩷』
『はーい』
そんなトークが目に入る。あの日を思い出して、喪失感を感じた。
「好きだったなあ…」
そんなことを呟きながら、彼に連絡しました。
『ごめん。あのときハヤトの家の鍵持ったままでさ。
よかったら、返してもいい?私が持ってても色々やばいだろうし。』
彼は即レスの人だったので長くても数日、早ければ数時間後に連絡は返ってくると思っていました。
ですが、何週間経っても連絡は返ってきません。
「ひどいなあ…私のことブロ削したのかな」
そう思って、私もきっぱり気にすることをやめました。
-それから5ヶ月後。
家のポストに手紙が一通入っていました。彼の両親からです。手紙の内容全ては覚えていませんが、覚えている部分を言うとこう書かれていました。
『アカリさん。
ハヤトがあなたのことを幸せそうに話してくれるの聞いていて、いい人なんだなと思っていました。いつか四人で一緒に話したいと、会いたいなと思っていました。ですが、叶いませんでした。
ハヤトは癌を患っており、危険な状況でした。アカリさんにも伝えようと提案したのですが、「心配かけたくない」と言っており、ハヤトの要望に沿って、ご連絡は控えました。
そして今年の5月。息を引き取りました。最後に残したハヤトの遺書には「アカリには絶対に言わないでください。」そう記されていたため、お伝えすることができませんでした。本当にごめんなさい。
つい最近になってハヤトの部屋を掃除していました。そしたら、ハヤトの本棚からある一冊の日記を見つけたのです。そこには、アカリさんとの大切な思い出がびっしりと書かれており、幸せそうな二人の写真も貼られていました。私たち二人はその日記を見て、アカリさんに伝えないなんてそんなことができない。そう思い、ご連絡させていただきました。
大変遅くなり、本当に申し訳ございません。手紙と一緒に、ハヤトがあなたへ渡したかったと綴っていたものをお渡しします。
改めて、悲しいご報告になり、本当にごめんなさい。』
何度も何度も読み返しました。癌を患っていたことなんて知りませんでした。ハヤトはいつも通り元気だと、そう信じていたのに違いました。手紙に添えられていたのは、キーケースでした。私がよく鍵をなくすことをハヤトは知っていたのでしょう。
もう、ハヤトに会えない。鍵を返したくても返せない。私がこのあいだ送った連絡に既読すらつかないのはそのせいだと思い返して泣き崩れました。
あのとき、浮気だと思っていたものは違ったのだと、私は後悔しました。
このビデオを見たあなたもこんな後悔がないように生きてください。
そこで途切れたビデオを私は何度見たことだろう。このビデオを撮った後、アカリという女性は姿を消したらしい。行方はわからない。このビデオ以外何も手掛かりがない。
「はー、また未解決事件か…」
そういって、部長は棚にビデオをしまった。
コメント
1件
まじで泣いた…😭💦 クリスマスイブのあの「帰ってほしい」の違和感、泣きそうな顔で謝るハヤトの優しさが全部後から刺さってくる…鍵を返せなかったアカリの気持ち、分かりすぎて辛すぎる。最後のビデオの締めくくり方もエモすぎて、胸がぎゅーってなったよ…。 真冬の花火さん、これはズルいよ…マジで心臓持ってかれた🥺💕
暇人A
48
名無しさん
8,274
らむね瓶@フォロバ100%
1,187
3