「羅依」
「ん?」
「そうしたら好都合だよね、私」
「そんな言い方しなくていい」
「でもそれが現実だよ。収入がないからアパートを出て、こんな快適な部屋に引っ越しするんだもの。羅依のことも多分好きだし…メリットしかないの、今は」
「最後に余計な言葉をつけんな」
「だって…もしケンカしても帰る家がないの。慎重にもなるよ」
「なんで才花がここを出る前提で話す?」
「だってここは羅依の部屋だもの」
「そうか。ここを才花のものにすれば、才花は出て行かないな?」
「はっ?」
「才花名義にすればいいだろ?任せろ。そういう売買は俺の得意分野だ」
「はぁ?羅依、頭大丈夫?」
「正常。明日どう動くかシミュレーション完了した」
「ちょっとっ…ストップ!」
お腹の前にある羅依の手をパンパンと叩いてシミュレーションをストップさせる。
いや、完了したって?
「そんなシミュレーションいらないから。家が欲しいって言ってないよ」
「そうか。じゃあ…愛だけでいいのか?」
「……そうだね…それって、信じられるものなのかな?分からない…信じられるものって、あるのかな?」
「俺」
「そうだね…信じられるものならいいよね」
私がそう言うと、チュッ…耳にキスが落ちる。
「江川ミナミって…私と同じように頑張っていたはずなのに…」
「狂った奴と同じように考えんな」
「…お母さんはお父さんと一緒にいられないとわかっていたのかな?それとも、信じていたのにダメだったのかな…しーちゃんも離婚しているし、信じられるものってあるのかな?」
「俺」
羅依は私の顔を後ろに向かせると、深く口づける。
それは
‘俺を信じろ’
と伝えるようでもあり
‘絶対に離さない’
という毒を送り込むようでもある。
それでも舌を絡ませ始める自分の気持ちを認めるしかない。
ただ…ほんの僅か…0.01%でも可能性があるなら…羅依を信じていないワケではないけれど、もしもの逃げ場を作りたいと弱った心で思う。
……夢のせいかもしれないけれど。
「…羅依」
「うん?」
私を自分の足の上で横向きにした彼は、私の唇を指先で拭う。
「お父さん…迷惑がかからないなら一度会えるといいな…お礼を伝えたい」
それも本心だ。
18歳の誕生日に入金してくれたくらいだから、私がダンスをしていることを知っていると思う。
でも………出来なくなった…それも申し訳ない。
「そうか。依頼しておく」
「ありがとう、羅依」
それから1週間、私はマンションから出なかった。
じっとしていた訳ではない。
歩行訓練は広い部屋から部屋で十分出来たし、ストレッチなどマシンを使わない体のメンテナンスを丁寧に行った。
江川ミナミと西河京子の代理人から示談が持ち掛けられ、私では対応がわからないところを、羅依が助けてくれた。
彼は罰金なんて私には入らないのだから、こちらも代理人を立てて示談交渉で示談金を治療費と別にもらえばいいと言う。
また何度か警察に事情を聞かれるのも嫌だから、代理人を含めて羅依にお願いした。
羅依にはお願いをしてばかりだ。
コメント
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お父さんと会えたらいいねー。絶対に才花ちゃんにとってプラスになると思うから☺️そしてその日を境に連絡を取り合えるようになれるといいなぁ。 才花ちゃん羅依の甘い毒を受け入れたね🖤もう離れらない、信じるだけ…信じられる唯一の人だよ。そして全細胞で受け止めて愛してくれる唯一の男だよ。 羅依あの2人からはしっかりいただくのは当たり前だけど、それだけ?他になにもしないの?してくれ〜🙏