「純愛のクロス」の主要キャラたちは皆容姿が優れている。
それはサリー=クイスのように通るだけで誰もが振り向くくらいずば抜けている。
その証拠にサリー=クイスが通ったあと、男子は顔を赤くして見惚れ、女子は憧れからか頬を染めている者が沢山いる。
「おいアルト!さっきの人誰だい?」
俺が彼女に見惚れていると隣にいたクーインが慌てて話しかけてくる。
「いや別に……知らないけど」
「嘘をつくな!さっき名前言ってただろ」
そこでふと、自分がやらかしていることクーインからの指摘され自覚した。
俺は無意識に彼女の名前を言ってしまっていたことを。
やらかした、そう思ってももう手遅れ。
俺はゲーム知識で彼女を一方的に知っているだけ。
現実の俺は貴族交流会に出た経験がなく、貴族の関係については疎いので、本来なら知っていたらおかしい。
どうしたものか……。
そして俺はクーインに貴族交流会へ一度も参加したことがない事を話してしまっている。
これでは貴族交流会で知った、と嘘をつくこともできない。
だから俺はゲーム知識から話しても問題ないだろうと判断し、名前と家のことを紹介した。
「さっきの彼女はサリー=クイスという名で、クイス侯爵家の御息女だよ。……てか急にどうした、恋でもしたか?」
「………違うよ」
「なんだよ今の間は?十中八九当たりだろ!」
「君の方がそうだろ?顔がまだ赤いぞ!」
「………」
顔が真っ赤であるとクーインにそう指摘されて自覚した。
彼女は前世からの憧れていたヒロインだ。それを現実で、しかも整いすぎている彼女の美貌を間近で見たら、そうなっても仕方ない。
「アルト……」
「ん?」
俺が考え事をしているとクーインが俺の肩を叩きながら今まで一度も見たことがないほど真剣な表情で名前を呼んできた。
俺はそんなクーインを見ながら話始めるのをまつ。
「アルト……これは一友人として、恩人の君へのアドバイスだ」
「……なんだよ急に」
クーインはそう前置きをして話始める。
俺は軽口を返すが、クーインの真剣すぎる表情。
何かを俺に伝えようとしている。
何を言いたいのだろう?
俺はクーインの話を黙って聞くことにする。
「先程の彼女とお前が今後どうなろうと、仲良くなるのは絶対にない。これは運命なんだ」
「……殴って良い?」
クーインは真剣な表情で俺にそう言ってきた。
俺の返答に対して今度はさっきとは真逆、ヘラヘラとふざけた表情に変わり、話を続けた。
「夢を見るなってことだよ!」
「お前、俺への恩を忘れたのかこのやろう!」
俺に酷いことを言ってきたクーインに対して文句を言う。
「別に夢見たっていいじゃん」
「やめておけと言っているんだ」
俺の文句に対してヘラヘラしながら返すクーイン。
さっき俺に見せた真剣な表情は何か別な意図があるのでは?と思ったが、こいつはただ俺を揶揄うためだけに見せたのかもしれない。
いつかこいつに好きな人ができたら同じようなことを言ってからかってやる。
この日俺はクーインにいつかやり返すと決めた。
こんなやりとりがあったおかげか、クーインはすっかり緊張が解けて、心底安心したような表情をしていた。
そして俺とクーインは入学試験の会場へ向かった。
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