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深澤「あれ…ここの音、おかしい」
深澤「ここもおかしい…」
深澤「んー…調律しなきゃかなぁ」
もう冬になるからか、ピアノの音程が少しおかしい。
深澤「もしもし…」
深澤「はい。調律をお願いしたくて…」
深澤「はい、はい」
深澤「明後日の14時でお願いします 」
深澤「はい…お願いします。失礼します。」
俺は、平凡なピアニスト。
特に売れてるわけでもない。
俺が演奏するピアノを誰かに聞いて貰えるなら売れなくてもいい。
今は個別塾講師のバイトとピアニストを両立し、不自由なく暮らしている。
深澤「あ、もうこんな時間だ」
深澤「バイト行かなきゃ…」
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深澤「お疲れ様です」
阿部「お疲れ様」
深澤「あ…阿部」
阿部「今日は遅かったね」
阿部「なんかあった?」
深澤「ピアノの音程がおかしくてあたふたしてた」
阿部「ほんと、ピアノ好きだよね」
高校時代からの友達の阿部。
お金に困っていることを伝えるとこの仕事に誘ってくれて、たまに二人で出かけたりするほどの仲だ。
阿部は気象予報士の免許も持っていて、とにかく地頭が良い。
でも、その上でちゃんと努力しているから、周りに彼の知識に勝つ人はいないと思ってる。
阿部の生徒が少し羨ましい。
深澤「俺、準備しなきゃ」
阿部「うん。頑張ってね」
深澤「宿題やってきた?」
生徒「やってきたけどわかんないとこたくさんある」
深澤「どれ?見せて」
深澤「じゃあ、大門3から教えるね」
深澤「ここは、まず最初に共通因数を作って…」
今日の分の仕事を終え、明後日の授業の予習をしていると、コーヒーのいい匂いがしてくる。
阿部「お疲れ様、ふっか」
阿部「コーヒーいれてきたよ」
深澤「ありがとう」
蓋付きの紙コップ2つ、それぞれに “俺”、”ふか” とわざわざ書いて渡してくれる。
俺は苦いのが少し苦手だから、粉の量を少なめにしてくれたりお湯の温度を調節して入れてくれたり。
阿部はブラックコーヒーで、俺より舌が大人。
阿部「俺はもう帰るけど、まだ予習中?」
深澤「うーん、俺も帰ろうかな」
深澤「寒いし」
阿部「コーヒー飲みなよ」
深澤「外出てから飲むのが美味しいんだよ」
阿部「それ、いつも言ってるけど何か変わるの?」
深澤「寒くなってから飲むとあったまるから」
阿部「まあ…ふっかは子供だからね」
少し皮肉を入れてくるような言い方にイラッとしつつも、いつもコーヒーを入れてくれるから許すことにした。
俺は子供じゃないからね。
阿部「…さっむ……」
深澤「コーヒー美味しい…あったまる」
阿部「俺も次は外に出てから飲もうかな」
深澤「そうした方がいいって!!」
深澤「……ん」
なんだか、ピアノの音が聞こえてくる。
いつもは聞こえないから幻聴かな、と思っていると、阿部もキョロキョロしだした。
阿部「なんかピアノ聞こえるね」
深澤「だね〜。」
深澤「綺麗な音」
深澤「俺へのご褒美かなぁ」
阿部「今日は特になにかした訳でもないのにね」
またまたイラッときたけど、子供じゃないので怒らない。
音が聞こえる方を向くと、いつも工事されていて見えていなかった外装が今日は見えていることに気づいた。
その建物には、 “ピアノ調律・修理専門店”の文字。
新しく出来たんだ。
深澤「ねえ、阿部」
深澤「ここのピアノの調律屋っていつからあるの?」
阿部「3日前くらいからはあるよ」
阿部「その時はピアノの音は聞こえなかったけど」
阿部「もしかしたら営業開始したのかもね」
深澤「ふーん」
聞こえてくるのは、シューベルトのアヴェ・マリア。
アヴェ・マリアは終始綺麗な旋律で、多くの人が弾いているのを見てきた。
深澤「ねえ、阿部」
阿部「なに?」
深澤「この曲、アヴェ・マリアって曲なんだよ」
深澤「阿部と似てるね」
阿部「……はぁ」
阿部「うん、なんか嬉しいよ」
深澤「でしょ」
深澤「フカザワって曲も無いかなあ」
阿部「それはなかなかないんじゃない?」
深澤「ははっ、そりゃあねえ」
深澤「じゃあ俺が作っちゃおうかな」
阿部「ふっかなら作れるよ」
深澤「そう?」
深澤「まあ、俺ピアノのことになると真剣だから」
阿部「知ってる」
本気で作ってみようかな、とか思ってみたり。
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