3日間、ノアは天下の国の歴史を調べることにした。本が一番調べやすいとノアは思い図書館に向かった。中央の国に来て静かな所にしか行っていなかったから外が余計騒がしく感じる。近くの人に聞いてみると丁度祭りがあるらしい。その祭りには他の国の人も来るほど人気らしい。炎麗や飛雷、瑠姫も来たことがあるのだろうか。
図書館の中は外とは違い、人は見た所ノアしか居ない。騒がしくもない。何かを調べるには丁度いい。ノアは早速フェビリオの言っていた、魔龍と神と契約した騎士との戦争の事を調べた。中央の国を救った英雄達だ。伝記の一つや二つあるだろうとノアは思った。
調べていたノアはとある事に気づいた。
ノアが調べている事に関する本は全て見たはずなのに、シヴェルという名前を一度も見ていない。
(シヴェルさんって凄い偉い人でしょ?何で…)
「ノアくんこんにちは〜調べ物?」
「わぁっ?!」
ノアは咄嗟に口を両手で塞いだ。
「あはは〜、ごめんねびっくりしたね。というかちゃんとお互い顔見るのは初めましてだね」
「アタシはマリン・リーナヴェレア、君のその本に書いてある水神と契約した騎士だよ」
ノアより少し背が高く。瑠姫と同じ様に耳の位置に魚の鰭がある。コバルトブルーの肩までの長さの癖毛のハイポニーテールでロイヤルブルーの瞳がノアを見つめていた。
「この本古いから、書いてあることほぼ正確じゃないんだよ〜」
そう言うとマリンはノアからその本を取り上げた。
「この本だけじゃ分からない事だってあるでしょ?だからアタシが話してあげるよ」
「あっ、ありがとうございます」
「取り敢えず人の居ない所行こっか」
わざわざ人の居ない所誘うということは、普通の人には聞かれては行けない内容なのだろう。
「よし、ここなら大丈夫!聞きたいことある」
「何でシヴェルの名前がどの本にも書いてなかったんですか?」
「え?何でシヴェルが契約騎士なの知ってるの?」
「えっと…とある人から聞いて…」
ノアはこの時、フェビリオと答えられなかった。それはフェビリオが自分が起きていることはシヴェル以外の他人に言うなと言われていたからだ。
「ふ〜んそうなんだ」
「ちょっと説明するの難しいなぁ〜…」
「あのね、シヴェルは契約騎士じゃないの」
「…はい?」
「シヴェルは偽名…?というか、本当の名前はフランメ・レディーアテイン、それが契約騎士の時の彼の名前ね」
「本にはシヴェルじゃなくてフランメって書いてあったでしょ?」
「フランメとシヴェルは同じ存在だけど、フランメは契約騎士でシヴェルは契約騎士じゃないの」
「何でわざわざそんな事したんですか…?」
「… 魔龍と戦ったあと、生き残ったのはアタシとフランメだけだった、他は皆死んじゃった」
「もうフランメには、フランメとして生きる気力が無かったんだよ、契約騎士の責務を全うできても、団長の責務は全うできなかった」
「フランメはもっと褒められる存在だよ、あそこでフランメが魔龍止めてなければらこの大陸全部魔龍の物になってたかもしれないんだからさ」
「でもフランメはそれが嫌だった。自分は褒められる存在じゃないって、仲間守れなかった奴が褒められるべきじゃないって、どんどん自分責めてって」
「アタシも辛かった。でもフランメはもっと辛かったんだよ」
「フランメに言われたの『ころしてくれ』って」
「まぁ、本当に殺した訳じゃないけど、私が出せる最大の魔力使って眠らせた」
「で、フランメが起きた後、名前フランメからシヴェルに変えたの」
「アタシがフランメの人生を終わらせた。そしてシヴェルっていう人生を与えた」
マリンは会った時から表情を変えずに明るく振る舞って喋っていたが、ノアも分かった、本当に辛かったのだろう。契約騎士が魔龍と戦ったのは五百年前の事だ。仲間を失い、生き残った仲間を自分の手で眠らせ、その間、その寂しさを、辛さを誰にも分かち合える事が出来ず、一人で過ごしてきたのは相当辛かっただろう。
「あのさ、この事、他の人にはナイショでお願いね」
「はい、分かりました」
「うん、ありがとね」
もう日が海に沈む頃になってしまった。そろそろ帰らなければ。
「じゃあ僕はここで」
「うん、じゃあね〜」
ノアはその場から離れた。ノアが見えなくなった時、マリンは口を開いて言った。
「いつまでそこに隠れてるのかなぁ〜?」
「シヴェル?」
「…」
「いつからそこにいたの?」
「俺の本名がシヴェルじゃなくてフランメだって言ったところからだな」
「結構最初じゃ〜ん」
二人で笑い合ったあと数分の沈黙が訪れた。波の音と街から人々の声が聴こえる。
「…お前の口からフランメという言葉を聞くのは久しぶりだな」
「じゃあ今度からフランメって呼ぶ?」
「いいや、いい」
珍しくフランメの口が緩み、微笑みが溢れた。
「ていうか、アンタからアタシの方に来るの珍しいじゃん?なんか用?」
「あぁ、遠征に行くことになった」
「…ふ〜ん?メンバーは?」
「俺と、ノア、そしてティティア、セイレス、ネロ、シルク、ファルシオ、フォルトゥナ、エフロレ、ラメール、合計10人だ」
「へぇ〜?アタシはお留守番?」
「あぁ…だからお願いがある」
「何?」
「俺がいない間、この国と騎士団を代理団長として、守ってほしい」
「アタシにそんな役任せちゃって大丈夫?」
「あぁ、頼めるのはお前しか居ない」
「うれしいこと言ってくれんじゃん?」
「…分かった、任せて」
「ありがとう」
二人は夕日が沈むまでを見ながら波の音と街の音に耳を傾けた。