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#追放
カルドが王都につくと
物々しい様子に満ち溢れていた
なんとかリチャードに会おうと必死だった
なんとか見知った顔を探して
リチャードに会うことができた
「そうか」
リチャードは一言そういっただけだった。
「少年、商会をまとめるのに一番必要なことはなんだ?」
「まさかお客様のために尽くす心なんて言わねえよな」
「仲間への信頼と彼らを導く力です」
「俺にはそれがなかったかもしれんな」
「港に帰れ!俺の金を頼む、今委任状書いてやる」
「いやだ、俺も行く」
「誰に金まかせるんだよ、帰れ」
一瞬だけ、沈黙が落ちた。
「しばらく来るんじゃねーぞ、ちっと荒れる」
「じゃあな、忙しいんだ、これから、勝ってくるけどな」
カルドは、違和感を覚えた。
いつもの軽口のはずなのに、
どこか――遠い。
リチャードは振り返らなかった。
生きて戻れぬと悟っていたのかもしれない。
「こんな戦あるかよ……」
旗が、一つ消えた。
また一つ。
味方のはずの軍勢が、
ゆっくりと、敵の陣へ流れていく。
多くの軍を集め有利に進んでいた戦場
だが
戦場の貴族は
続々と日和見を決め、
次々とヘンリー側に寝返っていく
「あんなよええ軍に俺はまけるんか」
何度か突撃を繰り返し
敵に多大な損害を与えつつも
その劣勢は覆せなかった
本陣は乱戦状態になり
砂煙で前が見えなくなった
リチャードは動けなくなった馬を捨て
腰を下ろした
目を凝らすと真っ黒に汚れた
少年が駆けてきた
「負けだ!逃げるぞ」
少年は傭兵特有の退却の仕草をした
「ばか、俺は王だよ、勝つまで帰れねえんだ」
「なに言ってんだ、逃げなきゃ死ぬぞ」
「ん?」
「お前、商売人だろ」
リチャードは笑った。
血に濡れた手で、王冠を外す。
「ほら、これやるよ」
投げるでもなく、
転がすでもなく、
ただ足元に落とした。
「王国だ」
「代わりに馬をくれ、馬がねーんだ」
足元に王冠が転がる
「王家はみんな死んだ、だれがなってもいいなら
お前がなれ!」
「もう駄目のようだな」
「そんなことない。気をしっかり持てよ」
「カルド……俺もな、ほんとは立派な王様ってやつになりたかったぜ」
「あんたは立派な王様だよ」
「……そうか?」
「だってさ――
俺に胡椒のついた肉、食わせてくれただろ」
「……あれは、うまかったな」
「物乞いみたいな俺をさ、
でっかい風呂に入れてくれた、それから……」
「カルド、よく聞け」
「俺みたいになるんじゃねーぞ」
「みんなに笑顔をもたらす王になれ」
「人を恨み、人を陥れる王はな――
最後は恐怖でしか人を縛れなくなる」
「だから――」
「笑え」
「ユーモアを忘れるな」
「……気にするな」
「王になっちまえ」
少しだけ、笑った。
「立派な王になれよ」
足元の王冠を拾う。
重い。
血と泥で汚れたそれを、
カルドは腹のあたりに押し込んだ。
一目散に、逃げた。
振り返らなかった。
振り返れば――
全部、終わってしまいそうだったからだ。
畜生……!
畜生! 畜生!
正しいことをする王は間違いなのか
王位とは幼い子供を殺してまで欲しいものなのか
家柄とは人を裏切ってまで守るものなのか
子の罪をやり遂げさせるのが母の愛なのか
少し間)
……ふざけんな
人を陥れて、
正統だなんだとほざく奴らを――
俺は、絶対許さねえ
戦いは、ヘンリー軍の勝利に終わった。
トマス・ボーフォートは進み出て、
勝利を称えるとともに命じた。
「リチャードの王冠を探せ」
だが――見つからなかった。
誰が持ち去ったのか、
それとも最初からそこになかったのか。
誰にもわからない。
腹いせか、見せしめか。
リチャードの遺体は裸にされ、
馬の背に括りつけられた。
かつて王だった男は、
二日間、街に晒された。
笑う者もいれば、
目を背ける者もいた。
だが――
その頭に、王冠はなかった。
そして――
ヘンリー・テューダーは、王都に入城した。
後年――
カルドは、古びた王冠を指でくるくると回していた。
「俺はさ、リチャードから国を買ったんだよ」
軽く笑う。
「代金は……馬一頭だったかな」
誰かが笑う。
カルドも、つられて笑った。
「リチャードは言うんだよ」
少し芝居がかった口調で、真似る。
「A horse! a horse! my kingdom for a horse!」
(馬をくれ、馬を――馬一頭で、わが王国をくれてやる)
一拍。
くるくると回していた王冠が、ふっと止まる。
「……あいつらしいだろ」
そして、少しだけ目を細めて言った。
「俺は――悲劇より、喜劇が好きだけどな」
第一部 完