story1.
「クソっ…またフラれた…。」
近所の公園で酒を呑みながらベンチで呟いた。俯くと、目頭がジワっと熱くなってポタポタと涙が溢れてくる。
飲まないとやってらんねー。と、思いながら飲めば飲むほど元カレの顔が脳裏にチラついて悲しくなってくる。なんで別れた時って付き合いたてのあのラブラブな日々が走馬灯の様にエンドレスに流れてくるんだろ…。ここは地獄なのか?あの時に戻りたい…。そんな思考の後には別れ際の彼の台詞。
「ごめんじゃねーよ!」
ゴクゴクゴクっ。
勢いよく呑んで缶を持つ手が急に無意味になると脱力した。中身が無くなってカツンッと軽くなった音がした。
自分が座っているベンチの横にはコンビニで買った酒がまだ何本も残っている。
春先の肌寒い夜。ヤケ酒で麻痺した身体は寒なんて微塵も感じない。
本当ならこんなところで飲まなくても少し歩けば自分の住んでいるアパートに着く。でもそこにも帰りたく無い理由があった。ヤケ酒を呑んでいる俺は楠木次郎(くすのきじろう)。
なぜ帰りたくないのか…。
なぜなら、…その部屋は今日俺をフッた元カレと同棲していたから。
「帰れるわけねーじゃん…。無理…。」
アイツは昨日出て行った。でも惨めったらしく近所で飲んだくれている自分はなんとも滑稽だろう。
あわよくば、奇跡的に戻って来たアイツに何やってんだよ!って心配してもらえたらまた元に戻れるかもしれない。だからいつも帰り道に通る公園で酒を飲んでいる。でも来る訳はない。だってフラれたから。他に好きな人が出来たって…。お前は俺じゃ無くても大丈夫だろって…。いつ大丈夫なんて言った?一緒に居たいから何でも完璧にやってきたのに。何がダメで、何が大丈夫だったのか俺には分からない。
新しい缶の口を開けて、一口呑んだ。
「全然わかんねーよ…。」
甘くて飲みやすいからと、ゴクゴク呑んでいたら急に焦点が合わずにクラっとした。もともとそんなに酒は飲まないから、久しぶりに呑んだせいでそろそろヤバいかもしれない。警察に通報されたり、誰かに迷惑をかける前に帰らないと。
開けたばかりの酎ハイを一気に飲んで息を吐くと、視界が再度大きくグラっと回転した。
あ、これマジでヤバいやつだ……。
◇
頭の激痛で目が覚めた。知ってる天井だ…。うち?でもなんか…ここ…どこだ?本当にうちか?
「いっだぁぁぁーーーっっっ!!!!」
周りを見渡そうと頭を動かすとより一層激痛が走った。涙目で頭を抑えるとズリ落ちた布団から自分の身体が見えた。
(はっ!服着てない!!!!えーーっ!!!何?!俺の服?!!)
まだまだズキズキと痛む頭を両手で抱えながら洋服を探してなんとかキョロキョロすると、なんだかホワっと暖かい人肌を感じた。
顔は見えないけと、隣には知らない男が寝ていた。
(なっ!?んでっ!!!!????)
驚き過ぎて言葉にならない叫び声が頭の中に響き渡った。
若干のパニックと恐怖の中、もう少し隣の男の顔を見てみると、その男は新入社員として先日入って来た男、石田響(いしだひびき)だった。
(何?!何でこいつここで寝てんの?!何?!怖い!怖い!怖いっ!!!自分が一番怖いっ!!!あんなとこであんなに飲まなきゃ良かった!せめて家で飲めば良かった!あぁーー!!!あの時に戻りたいんですけどぉー!!!!)
この思考時間0.01秒
ゴソゴソ
俺のアタフタが刺激になったのか、寝返りを打って石田が目を覚ました。
「楠木さん…大丈夫ですか?」
あ、声掠れてる。何て思う暇も無く上半身に布団を手繰り寄せて身体を隠した。
「あ、あれ?!石田?!なんでお前がここにいるの?!何で?!うっ!痛いっ!!」
「楠木さん、公園のベンチで泥酔してましたよ。全然しゃべれないし、歩けないから危ないんで連れて帰りました。」
(ヒィーーーーっっ!!!!)
「俺、歩けなかったの?!本当にすんません!」
激痛の頭と胸の布団をダブルで抱えて、隣の石田にガバっと頭を下げた。
「痛ったぁぁーーっっ!!!」
「まぁ、あんだけ呑んでたらそうなりますよね。今、水と薬持って来ますね。」
バサっと立ち上がった石田は上半身裸で下はスウェットを履いていたが驚いた。
(あ、意外と良い身体…違うっ!!)
「ご、ごめん。」
直接の先輩としての威厳はこの一晩で砕け散った。
「はい。これ水と薬です。」
「すまん。」
「玄関にカバンと酒の残りを置いておきました。」
「あ、ありがとう。色々すまん。」
水のペットボトルを受け取って、薬を飲んだ。その後も早く頭痛を治したくて水の飲み続ける。水を飲みながら今思いついた事を石田に聞いてみた。
「あ、俺の事どうやって運んだんだ?」
「お姫様抱っこです。」
ブーーーーーーーっっ!!!!
口に含んだ水を全部吹き出してしまった。
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