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シーニャにとどめを刺そうとしたその時だった。リアンは自分が繰り出そうとしていた鋭く尖った枝が、何者かによって止められていたことに気付く。
「な……ぜ!?」
「お前の役目は足止めだ。獣人、それも虎人族を抹殺することでは無い。半端な樹人族が出しゃばった真似をするのは見過ごせん」
「イスティが来ている! それでも止めるのか?」
「それならなおのことだ。われらはイスティの実力を見定め知ることにした。樹人族リアン、ここは引け! さもなくば――」
「……わ、分かったよ」
リアンの攻撃を止めた男の言葉により、リアンは攻撃を止めていずこへと消え失せた。
「ウニャ。お前、何なのだ? どこから来たのだ? 派手な人間、見たこと無いのだ」
危機を脱したシーニャは目の前の男にすぐ話しかけた。
「ふ、人間の装備を着る虎人族か。それもイスティの仕業なのだろうな」
男は赤紫色の襟付きマントを羽織っていて、顔を半分ほど隠す黒色のマスクをしている。
「お前、敵なのだ? さっき何をしたのだ?」
「どちらでもないが、礼儀くらいは身に着けている。樹人族が勝手にしたことについては、許せ」
「納得なんて出来るはずが無いのだ! アックがただじゃおかないのだ!」
「アック? イスティの名か。とにかく、われは失礼させてもらう」
「逃がさないのだ!!」
この場を去ろうとする男に対し、シーニャは無意識ながら木の根を放つ。木の根によって男は身動きが出来なくなっている。
「むっ!? 木属性が使える虎人族だと? ……いや、リアンのせいだな」
「ウニャニャ!? 何なのだ何なのだ~!?」
「ふむ……覚えたてか。それならまだ抜け出せるな」
男がそう言うと、シーニャが気付く間もなく男に距離を取られた。何かの攻撃をされたでもなく、するりと抜け出されていた。
「な、何なのだ!? 何をされたのだ」
「そのうち分か――」
戸惑うシーニャをよそに、男はこの場から去ろうとするが、
「全く、ワーム族がいなくなったかと思えば今度は派手な謎の男か。シーニャに下手な真似をしたようだが……?」
「ウニャッ! アック! アックなのだ~!」
「悪い、シーニャ。いま何とかする!」
おれは樹人族リアンによって地下に落とされていた。だが、突如ワーム族が行方をくらました。直後、地上で妙な魔力を感じたので急いで戻って来たわけだが。
この場にいるのはシーニャだけでルティたちの姿は確認出来ない。
……が、何とも派手な男がいたものだ。
「イスティ……キサマが、アック・イスティか?」
「……そういうあんたは何者だ? リアンとやらはどうした?」
「われは末裔のウルティモ。樹人族はすでに去った」
「末裔だと? その雰囲気はネクロマンサー? いや、それよりもシーニャに何をしたのか話せ」
「そこの虎人に聞け。われらはこの先でキサマを迎えてやる! それまでせいぜい見つけておけ」
ウルティモと名乗った男はこの場から離れるつもりなのか、後退を始める。だがこのまま逃がすつもりはないので、風魔法で奴の動きを止めてやることにした。
そう思った一瞬、妙な感覚がおれの全身を襲った。こちらの動きを封じたでも無さそうなのに、自分の動きが鈍くなったような感じがした。
「……アック、どうかしたのだ? あの男はどこへ行ったのだ?」
「おかしいな……魔法が発動していないのか? そんなはずは無いんだが……」
「シーニャ、あの男に助けられたのだ。どうやったのか分からないのだ」
「助けられた? それもどうやったのか分からないままか」
妙な魔力の奴だった。結局奴が何の末裔なのか気になるところだが、もしかすればフィーサが知っているかもしれないな。
それとも魔石に聞くというのも手か?
「ウニャ。アックは大丈夫だったのだ? シーニャ、森を思い出して理性がどこかへ行ってしまうところだったのだ」
「ワータイガーの頃か。そうなったらシーニャはシーニャじゃなくなる?」
「もう平気なのだ! アックのためにシーニャ生きているのだ。ウニャッ!」
「そうか。シーニャ、よく頑張ったな!」
「フニャ~」
理性を失ってしまえば、彼女はおれの知る彼女じゃなくなってしまうかもしれないな。
「ところで、ルティたちはどこに?」
「泉の所にいたはずなのだ」
ここは初め、草原が広がり奥には泉があった。しかし男が去って気付いた時には、すでに何の変哲もない土がむき出しの地面だけになっていた。
「泉どころか草原も消えているな……リアンがいなくなったからか」
「――アック、アック! 何か聞こえるのだ」
「……ん?」
シーニャの小さな虎耳が微かにパタパタしている。どうやら何かの音に反応しているようだ。
『はえぇぇ~……た~す~け~てぇぇぇ~』
どこからともなく聞こえてくるあの声は、間違いなくあの娘の声だ。
そうに違いない。