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「はい、ずっとあなたのそばに」
答えを返した後に、まるでプロポーズの言葉のようにも思えて、急にドキドキと胸が高鳴ってくる。
「キスをしても……?」
コクッと頷くと、唇が重ねられて、より強く両腕に抱き込まれた。
「君が好きで、仕方がない」
「私も、たまらなくあなたが好きで」
互いの想いを確かめ合うように、口づけは次第に熱を持ち深まっていく。
「貴仁さ……ん」
息を継ぐ間に、名前を呼びかける。
「好きだ……彩花」
耳元で呼び返され、低く甘やかな声音に、身体がゾクリと震える。
込み上げる感応に、魅き寄せられるように彼の首筋に腕をかけた、その刹那……
ふいに猫がニャーと鳴くのが聞こえたと思ったら、部屋の扉をコンコンとノックする音がにわかに響いた。
「ちょっと待っていてもらえるか」
彼が名残り惜しそうにチュッと薄く唇に触れ、ノックされた扉を開けに行った。
「紅茶とケーキをお持ち致しました」
すると銀色のワゴンを押した源治さんが中に入って来て、ソファー前のテーブルの上にティーポットとカップのセットを置き、フルーツタルトの乗ったお皿を並べた。
「うわぁー、美味しそうですね!」
フレッシュなフルーツのたくさん盛られたタルトに、感嘆の声を上げると、
「こちらはお抱えのパティシエに作らせたものでして、そう言っていただくと、きっと作った者も喜ぶと思います」
源治さんが笑みを浮かべて話した。
(お抱えのパティシエ)なんて、やっぱりお城みたいでと、密かに思う。
(だけどここがお城なら、貴仁さんはもちろん王子様だろうな……)
勲章が輝く華麗な宮廷衣装に真紅のマントを羽織り、煌びやかな王冠を頭上に頂く彼の姿を想像すると、フフッと顔がほころんだ。
「うん? どうした、笑ったりして」
王子様を思い浮かべていてとはさすがに言いづらくて、「ああいえ、なんにも」と、とっさにごまかした。
「そうなのか? ああ紅茶は私が淹れよう」
彼がティーポットからカップに紅茶を注ぐ、その優雅でたおやかな手つきに、
「あ……、ありがとうございます」
本当に王子様みたいでと、目が奪われてしまう。
「それでは、私はこれで。ミルクのことは連れて行きますので、どうぞごゆるりと」
彼を見つめる私の熱っぽい眼差しを知ってか知らずか、源治さんは胸に片手を当てて軽く頭を下げると、猫とともに部屋を出て行った。
扉が閉まる間際に、ミルクに「じゃあね」と小さく手を振ると、私に応えるように頭を振り返らせて、「ニャーン」と一声を返してくれた。