「付き合ってください。」そう言われたのはこれで何回目だろうか。
「もちろんです。」そう答えたのは初めてだった。
名前も知らずに付き合った彼。理由は言い寄ってくる男が面倒だったから。だから、なんとなく学校内で怖い人として見られている彼と付き合った。ヤンキーっぽかったし、よく先生にも怒られてたから、私にはぴったりの人だった。
私と東優太郎、優くんが付き合ってから、私に近寄る男は減っていった。だけど、優くんの友達や知り合いには、たまに遊びに誘われたりしていた。私には、彼氏という言い訳があるから、それを味噌にたくさん断った。
付き合って二週間くらいたった。お母さんが亡くなり、葬式も終わった次の日。私は優くんに会いに行った。学校の近くの静かな公園。私たちは、ブランコに座った。そのまま風をきって高く上がることはなかった。2人とも、しばらく喋らなかった。
「悲しいよね。いつも近くにいたお母さんだもんね。」先に話し始めたのは優くんだった。優しい声でそう言った。
「悲しいんだけどね。私、お母さんには気が緩くて。いつも口も悪かったし、態度も悪かったのに、なのに言い返して喧嘩なんてしたことがないんだ。」
「だけどね、私お母さんに何もできなかった。家事を手伝うことも、マッサージしてあげるとか、何にもできなかったの。それが怖くて。このまま私は何もできないなんて」私は泣きながらそう言ったことを覚えている。
「そうだよね、ずっと一緒だと思ってたもんね。でも、ちゃんと返せてるよ。これから健康に生きて、たくさん天国にいるお母さんに感謝したらいいじゃん。それに、俺がいるから。美晴にキツく当たられても怒ったりしないから。」
そう言って抱きしめてくれた優くんは柔らかい柔軟剤の香りがした。
「じゃあ、またいつかね。」私は笑顔でそう言った。
「そんな言い方しないでよ。また会いにいくし。だから美晴も会いに来てね。」
「うん。」寂しくて仕方がなかった。
「電話もしようね。そしたら我慢できるから。」向かい合わせでそう言い合った。
さっき別れたばかりなのに、もう思い出してしまうなんて。もう会わないって決めたのに。このまま音信不通になって、きっぱり別れてやろうと思ったのに。
あの言葉で、私は好きになってしまっていた。本当の恋をしてしまっていた。だから思いっきり離れてやろうと思った。私の大切なものを置き去りにしてでも、新しい自分でいたいと思った。それでお母さんのことも、優くんのことも、全部忘れてやろうと思ったのに。
だけど、今のところ、私はそんなことばっかり考えてる。この先どうなるか分からなくて、不安でいっぱいだった。こんなこと忘れて、早く自由に生きていたいのに。
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