『花園の妖精達』へとやってきたシャーリィ=アーキハクトです。皆には待って貰って私は守衛さんの案内で一階の奥にある貴賓室へ招かれました。明らかに貴族を歓待するための部屋。調度品は更に高価なものですし、シャンデリアまであります。
また電気も使われていない。貴族は懐古主義者が多いので、便利な電気ではなく蝋燭を使うんですよね。非効率にもほどがありますが、個人の趣向にまで口を挟むつもりはありません。私は絶対にしませんが。
部屋には高そうなソファーに腰掛けている女性が一人。真っ赤なドレスを身に纏い、輝く金の髪を腰まで伸ばした美人さんです。なによりスタイルが凄い。私の語彙力を破滅させるレベルです。
これじゃ殿方は骨抜きにされてしまいますね。
「いらっしゃい、可愛いお嬢さん」
うーん、口調に妖艶さがありますね。まさに大人の女。
「ご招待頂きましてありがとうございます。暁代表のシャーリィです」
先ずはご挨拶として一礼しました。組織の長が簡単に頭を下げるなと言われたことはありますが、この小柄でチンチクリンな身体です。威厳なんて今更ですよ。
変なプライドなんて邪魔なだけですし、相手が侮ってくれれば付け入る隙が出来るだけですから。
「ティアーナ=メルンよ。花園の妖精達を率いてる……うーん、上手い言葉が見付からないわ。代表とでも思って頂戴」
「はい、ティアーナさん」
「それにしても、随分と飾らない格好ね?」
「申し訳ありません、シスターがこのままお会いしろと……」
村娘スタイルですからね。やはり礼を欠いたか。
「それで良いのよ。ここは着飾る必要の無い場所。男も女も全てをさらけ出す楽園よ?裸になれば誰も変わらないわ」
「そういうものですか?」
「そういうものよ。姉さんの助言は間違えていないわ。さっ、立ち話は楽しくないわ。此方にいらっしゃい」
「どちらに?」
室内を見渡しても、ティアーナさんが座ってるソファー以外に椅子が無いのですが。
「ふふっ、遠慮しなくて良いわ。ほら、いらっしゃい」
自分の隣をポンポンと叩くティアーナさん。
……隣に座るのですか?初めてではありますが、相手の流儀に合わせましょう。
「なにか飲む?お酒もあるわよ」
「では蜜柑ジュースで」
「あらあら、随分と可愛らしい注文ね。蜜柑ジュースをひとつ。私も同じものをお願い」
隣に座るとティアーナさんが飲み物を聞いてきたので、正直に答えました。お酒は得意ではありませんし。
少し待ってると、ボーイさんがボトルとグラスを二つ持ってきてテーブルに置いてくれました。あっ、氷がある!
「ふふっ、驚いた?オータムリゾートから仕入れているのよ。どうやって氷を保管してるか分からないけれどね?」
間違いなくレイミですね。あの娘にとって氷を作ることなんて造作もない筈。
ティアーナさん自らが準備をしてグラスにジュースを注いでくれました。
「それじゃあ乾杯しましょう?今日の素敵な出会いにね」
「はい、ティアーナさん」
私達はグラスを交わしてジュースを飲みました。うん、冷えていて美味しい。
「姉さんから話は聞いていたけれど、本当に表情が変わらないわね?」
「小さい頃からです」
今は意識して感情を表に出すようにしていますが、疲れるから普段は無表情のままです。
「面白い娘ね。気軽にしてちょうだい」
「肩の力は抜いていますよ」
距離感が近い。いや、こんなお仕事をしていれば当然か。気を抜いたら主導権を持っていかれてしまいますね。
気を引き締めないと。
「それで、今日は挨拶だけかしら?」
「ご挨拶とより良い関係を作れればと考えています」
「あらそう?嬉しいわね。でも、私達は武力を持っていないわよ。精々ボディーガードくらいかしら。抗争では役に立たないわ」
「オータムリゾートみたいなものですか?」
「そうね、そう考えてちょうだい。ついでに言えばオータムリゾートみたいに裕福でもないわ。お得意様はたくさんのお金を落としてくれるけれど、若い子達のお給金に充ててるから意外と貧乏なの」
シスター曰くティアーナさんは行き場を失った女性達を保護しているのだとか。
『花園の妖精達』には娼館以外にもいろんな仕事があるみたいなので、そんな女性達の受け皿になっているみたいです。
「お話しはシスターにある程度は伺いました。まるで善人です」
「善人じゃないわよ。結局働かせて売り上げを貰ってるんだもの。酷い女でしょう?」
「そういうことにしておきます」
ほとんどのお金をお給金として渡して、手元にはほとんど残らないと聞きましたよ。ただ、指摘するのは無粋ですね。
「さて、武力もなくてお金もない。貴女は何を望んで、何をしてくれるのかしら?」
本題ですね。
「私が欲しいのはティアーナさん達が手に入れる情報です」
『花園の妖精達』の情報網は侮れません。ラメルさんやマナミアさんから強い推薦を受けています。
「情報、ね。確かに男はベッドの上だと口が軽くなるわね」
「はい、体験済みです」
ルイが隠し事をしている時はさっさと寝室へ招くに限ります。
「あら、初なお嬢さんでは無さそうね。それじゃあ、黄昏にうちの娼館を建ててくれる?うちの独占なら尚嬉しいわ」
「もちろんです。既に建設予定地を策定していまして、後はご要望を伺うだけです」
黄昏には娼館の類いはありません。夜な夜な男性を誘う方が居るだけ。ただ、健全ではありませんし、風紀的にも宜しくない。
そのようなお店が必要なことも理解しています。
『花園の妖精達』の娼館建設は予想していたので問題はありません。
「手が早いのね。嬢についてだけれど」
驚いてるかな?
「全てお任せします。黄昏にもフリーの方が何人か居ますよ」
「それなら声をかけてみましょうか。殿方はたくさん居るかしら?」
「シスター曰く、むさ苦しいくらいには」
暁構成員の八割が男性ですし、更なる発展のため建設作業員なども大勢出入りしています。
組織内からもそう言ったお店の要望が出ていますし。
「あら、そんなに?」
「お客様には困りませんよ?うちの構成員だけでも六百人を越えますから」
農園作業員だけでも既に三百を越えました。ロウはまだまだ増員する予定だと張り切っていましたね。
「じゃあ、アガリについて。幾らかしら?」
ここが大事です。お互いに利益を出さないと関係は破綻しますから。
「一割でどうですか?」
「お店を用意して貰って、アガリまで安くて良いのかしら?」
「はい、ティアーナさん。その代わり」
「うちで得た情報を提供すれば良いのね。分かったわ。契約成立ね?」
また私達はグラスを交わしました。うん、無理難題を出されなくて良かった。
出費は大きいですが、お金は稼げます。情報はお金は勝りますからね。
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