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今までのおさらい
小さな町の小さな中学校だから、
数日で春香と付き合ったことはあっという間に
学年中に知れ渡った。なんなら先生にも。
茶化されるのが嫌で、学校ではあまり喋れていない。
「やったなぁ!」
と優希に勢いよく背中を叩かれ登校した。
「うぃ」と返したけど実感はあまり湧かなかった。
ここ数日、春香とは普通にメールの
やり取りをしているだけで、
学校で2人きりで話すなんてドラマみたいな
場面もなく、ただただ消化していく日常だった。
「ゆーきー、付き合ったらなにすればいいのー?」
と付き合ったことがある訳でもない優希に問う。
「そりゃ手繋いだりキスとかじゃね?」
考えただけでお顔が真っ赤。
そんなことできるわけがない。
「…他は?」
「学校一緒に帰るとか?」
「それだ!!」
「だけど春香ってバス通いじゃん?無理じゃね?」
春香は校内でも1番山側に住んでいる。
だから毎日バス通いなのだ。
だけど一緒に帰ることができれば、
面と向かって話す時間も増えるし、
なんなら手を繋いだりと夢が沢山詰まっている。
さて、この「一緒に帰りたい」欲望をどう叶えるか。
だけどその欲望はあっさり叶うこととなった。
帰ってから春香にメールで聞いてみた。
「学校一緒に帰ったりと買ってできないのかな?」
「塾に通ってる日は亀山駅まで歩いて行くから
その日なら一緒に帰れると思う。」
「マジ!?んじゃいいっすか!?」
「全然大丈夫だよ!毎週月水金が塾だから、
その日に一緒に帰ろー!」
ってな具合で毎週3回一緒に帰るという
嬉しい嬉しい下校タイムが始まることとなった。
春香が塾に向かう為、下校するのは4時で、
俺は4時半から部活が始まる。
この30分が言わゆるゴールデンスポットだ。
春香を送り届けた後、ダッシュで学校に戻れば
ギリギリ部活は間に合う。
そして明日は水曜日。急いで必要な物を準備する。
ハンドクリームよし!リップクリームよし!
念の為だ!
水曜日の朝、面構えが違う健一がそこにいた。
「いってきます」と母に伝え戦場に赴くその姿は正に
百戦錬磨を勝ち抜いた武士そのものだろう。
「表情硬過ぎ」
恭平に突っ込まれた。
「だってぇー、そりゃ緊張するべ」
「普通でいいだろ普通で」
と笑われた。
朝からの授業は多分そんなに見に入ることも無く、
何を話そうか、どうエスコートしようか、
そんな事ばかり考えていたらあっという間に
夕方になって約束の時間はそこまで来ていた。
ハンドクリームよし!リップクリームよし!
本当に念の為だ!
バッチリ決めて校内の男子専用出入口で
恭平と優希とでその時を待つ。
「健一、ほらあれ!」
と恭平に指を指されその方向を見ると、
トートーバッグを両手で持った後ろ姿の春香を
校門で見つけて、一気に表情が綻ぶ。
恭平と優希に茶化され春香の元へ行く。
「ごめん、待った?」
「大丈夫!んじゃ帰ろっか」
「うぃ」
ってな感じで駅まで約1キロほどの道を直進に進む。
話した内容なんて浮かれてて覚えてないけど、
ただ笑ってくれてたのは覚えている。
面と向かってちゃんと話すのは初めてで新鮮で
幸せだった。
あっという間に駅までたどり着いて
塾のお迎えワゴンが見えたところで手を振り
ダッシュで学校へと戻った。
学校に着くまで終始笑顔で。
道行く人はきっと俺が、
異常者に見えていたかもしれない。
部活が始まるところで恭平達と合流して、
バカ話を終えて部活モードに切り替えた。
帰ってからメールで距離短いから
少し遠回りして帰ろうということになり、
楽しい時間がもっと長くなることとなった。
3回目の一緒に帰る最中にさりげなく手を
握ったら、握り返してくれて
照れ笑いしてお互い無言で駅まで帰った。
リップクリームが活躍しなくとも、
こんな日が毎日続けばいいなぁと思った。
気付けば10月、卒業という2文字は
あと半年後を切っていた。