テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
4,037
2,635
12話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
最期の日々は、驚くほど穏やかに過ぎていった。
朝起きて、仕事をこなし、家に帰って寝る。
何も変わらないはずだった毎日。
同じ時間に目を覚まして、
同じ道を歩いて、
同じ部屋に帰る。
ずっと、ずっとそうだった。
でも今は違う。
レトルトのそばには必ず死神がいて
他の人には聞こえない、自分にしか聞こえない声で愛を伝えてくれる。
『レトさん!大好きだ!』
『レトさん!ずっとそばにいるからな!』
『レトさん、今日も可愛い姿みせて?』
『レトさん、ずっと一緒にいような』
そんな、新しい”いつも通り”がレトルトの生きる日々の中に増えていった。
そして、その“いつも通り”が、あと少ししかないことを――
レトルトは考えないようにしていた。
いつもなら休みなんて気にせず仕事を入れていたレトルトもカレンダーを見ながら死神と過ごせる休みを作るようになった。
上司にも「レトルトくんが自主的に休みをとるなんて珍しいな」なんて笑われた。
休みの前日の夜。
いつものようにテレビの前に座って、ゲームをしていた。
隣では、もちろん死神が大騒ぎしている。
『うわぁ!!そこ右!右だって!!』
「わかってるって!うっさいねん!」
『うわぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁ』
「ほんまにうるさい!!」
レトルトは眉間に皺を寄せながら、 でも口元は少し笑っていた。
うるさくて、騒がしくて、鬱陶しくて。
そんな時間が幸せだった。
ゲーム画面から目を離さないまま、レトルトはぽつりと言う。
「キヨくん、明日なにしよっか?」
その瞬間。
隣の騒がしい声が、ぴたりと止まった。
レトルトは不思議に思って横を見る。
死神は目を丸くしていた。
『……え?』
「だから、明日。 休みやろ? なにする?」
休みの日は、一人で過ごすものだった。
静かな部屋で、時間が過ぎるのを待つだけだった。
それが、レトルトの“いつも通り”だった。
そんなレトルトが 初めて自分から死神を誘った。
そして次の瞬間――
『……レトさん!!!』
「うわっ!?」
大声と一緒に抱きつくような気配。
『レトさんから誘った!?俺のこと誘った!?!?うれしーーー!!!』
「うるさい!!近い!!」
レトルトは真っ赤になりながら叫ぶ。
そんな反応を見て、死神は嬉しそうに笑った。
その顔を見ながらレトルトは思う。
(明日も、たくさん笑って欲しいな。)
そう思った自分に、少しだけ驚いた。
次の日(休日)
レトルトは死神を水族館へ連れてきていた。
以前スーパーで水槽を見つめていた時の死神の顔をなんとなく覚えていたから。
大きな水槽の前で、死神はぴたりと足を止めた。
目の前には、ゆっくりと泳ぐ魚の群れ。
青い光が水の中で揺れている。
その前に立つ死神の身体は、少し透けていた。
水槽の光を反射して、きらきらと揺れる。
青い光が肩を滑って、髪を掠めて、赤い瞳の中まで溶けていく。
レトルトは振り返り、思わず足を止めた。
(綺麗やなぁ)
いつもみたいに騒がしくて、うるさくて、落ち着きがない死神が、 今だけはまるで別人のようだった。
死神は何も言わず、 ただ目を丸くして水槽を見上げている。
しばらくしてから、小さな声が落ちた。
『……命だ』
その声は小さくて いつもの騒がしさはどこにもなかった。
大きな水槽の向こう側。
たくさんの魚たちが光を受けて泳いでいく。
群れになって流れて、 散って、また集まる。
青い水の中で、無数の命が揺れていた。
『たくさんの命……』
赤い瞳が、その光景を静かに映している。
『……綺麗だ』
死神はいつも死の側にいた。
誰かの終わりを見届けて、 誰かの最期に立ち会ってきた。
生きているものが当たり前に持っている時間を、 ずっと遠くから見ていた。
だからなのかもしれない。
死神は輝く命をまっすぐ見つめて
美しく脈を打つ命に釘付けになっていた。
その横顔を、レトルトは隣で静かに見つめる。
水槽の光が揺れて、 透けた身体がきらきらと反射する。
綺麗だった。
ただ今この瞬間、命を見つめる死神の横顔が
どうしようもなく愛おしかった。
そしてふと、胸の奥が少しだけ苦しくなった。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
そう思ってしまったから….。
死神の横に並ぶように立ちながら、レトルトはゆっくり水槽を見上げた。
青い光が二人の足元を揺らしている。
魚たちは何も知らないまま 静かな水の中を泳いでいた。
しばらく黙って眺めていたあと、レトルトがぽつりと口を開く。
「……ねぇ、キヨくん」
その声は、いつもより少しだけ静かだった。
「俺がもし死んだら、キヨくんも死神じゃなくなるんだよね」
死神は静かに頷いた。
レトルトは視線を水槽から外さないまま、続けた。
「そしたら……二人で、一緒の場所に行ける?」
その言葉に、死神は少しだけ目を伏せて
しばらく考えるように黙ってから、小さく笑った。
『……分からない』
正直な答えだった。
『でもさ….』
死神は顔を上げる。
『俺が死神になった時、頭の中で声がしたんだ。 全部終わったら、導いてやるって』
それから、 ぱっと笑って、
『だからさ、2人で一緒の所にいけるように
声の主に頼んでみるよ!』
そう言って、死神はにかっと笑う。
『レトさん、ずっと一緒にいような!』
まっすぐな言葉で、 何の迷いもなく言えるのが死神らしかった。
「……うん!ずっとキヨくんと一緒にいたい」
レトルトも笑って返事をした。
揺れる水槽の光が 透けた死神の身体はきらきらと光り、その姿は死神のはずなのにレトルトの目には天使のように見えた。
レトルトはその神秘的な姿から目を離せずにいた。
水族館からの帰り道。
空は茜色に染まっていて、遠くの雲の端だけがまだ少し明るい。
夜の気配が、ゆっくりと街を包み始めていた。
二人は河川敷を並んで歩いていた。
風が草を揺らして、さらさらと音を立てる。
レトルトがふと、自分の手を見ると
そこには死神の手が重なっていた。
本当なら触れられないはずなのに。
いつからだろう。
こうして時々、温もりを感じるようになったのは。
繋いだ手を少しだけ握り返した、その時。
隣で死神が静かに歌い出した。
『♪ 夕暮れを過ぎても とりとめのない無駄話
出会った頃から ずっと変わらない 鼻にかかる声』
あの歌だった。
何度も何度も聞いた歌。
気づけばレトルトも覚えてしまった、不思議な歌。
そして、レトルトも一緒に歌い出す。
「♪ 背が高くていいけど 足元見えづらくなるでしょ それなら代わりに虹を見つけるよ あの水溜まりの中」
2人は顔を見合わせて歌い始めた。
『「♪ 君のいたシナリオ 2度と知ることのできない世界を いま僕らここできっと見つけている 身にならない日々を 君と冒険して」』
茜色だった空は少しずつ色を変えて、
遠くの街灯がぽつぽつと灯り始めている。
繋いだ手に、少しだけ力が入る。
離れないように一一
確かめるみたいに一一
河川敷の草が静かに揺れて、 二人の声は夜の空へと溶けていった。
夜。
レトルトはベッドに横たわったまま、天井をぼんやり見上げていた。
部屋は静かで、カーテンの隙間から月明かりだけが差し込んでいる。
少しだけ乱れた呼吸。
熱の残る身体。
そして、すぐ隣にいる死神の気配。
レトルトはゆっくり顔を向けた。
死神はいつものように隣にいた。
赤い瞳が静かにレトルトを見ている。
「……はぁ……はぁ、キヨ、くん」
まだ整わない息のまま、名前を呼ぶ。
『なに、レトさん』
穏やかで、柔らかい声。
レトルトは何か言おうとして、口を開く。
でも、言葉が出てこない。
好きとか。
離れたくないとか。
ずっと一緒にいたいとか。
そんな言葉が胸の中でぐるぐるしているのに、 言葉をうまく紡げなかった。
胸の奥が苦しくて、温かくて、
好きだという気持ちだけが溢れていた。
言葉のその代わりにレトルトは、 そっと死神へ顔を近づけ、
唇が静かに重なる一一
触れられないはずなのに、
今ではちゃんと感じる温もり。
一瞬、死神は目を見開いて 驚いたような顔をしたが、すぐに ゆっくり目を閉じた。
受け入れるように。
確かめるように。
優しいキスだった。
お互いを想って、
好きという気持ちだけを重ねる様なキス。
レトルトが目を開けると、 すぐ目の前に赤い瞳が まっすぐ自分だけを見つめていた。
死神は少し笑って、 優しい声で言った。
『レトさん、愛してる』
その言葉を聞いた瞬間、 レトルトの目から
涙が零れた。
どうして泣いているのか、自分でも分からなかった。
嬉しくて。
苦しくて。
幸せで。
全部が混ざっていた。
レトルトは涙を拭うこともせず、小さく笑った。
「……俺も」
震える声。
「愛してるよ、キヨくん」
そう言って、もう一度そっと顔を近づけた。
今度のキスは、少しだけ長かった。
離れたくないと願うみたいに。
レトルトの命の期限
残り、1週間
続く
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!