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セイレンの見立てでは、カイルの熱は峠を越すまでに数日はかかるだろうとのことだった。


「三日は目を離さぬ方がよろしいが、ここには私たちもおります。お嬢様、お願いですから少しはお休みされてください」


老医師の言葉をリリアンナは真剣な眼差しで聞いていたけれど、耳に入っていたのは前半のみのように、決してカイルの枕元を離れようとはしなかった。


離れることがあるとすれば、カイルを冷やすために使っている革袋がぬるんでしまって雪を取り換える場合と、トイレに行く時くらい。


初めの夜は、それこそ数時間おきに革袋の雪を詰め直しては脇下や首筋に当てた。一晩で庭と医務室とを何往復したか、リリアンナにも分からない。額へ載せた布も、カイルがうなされて動くたびにズレてしまうから、そのたびに冷水で洗っては当て直した。


ここへ来る前――ウールウォード邸で叔父一家に下働きのようにこき使われていた時、あかぎれてボロボロになってしまっていた手指も、ライオール邸で大切にされているうち、綺麗になっていた。


だが、こんな風に無理をし続ければ、すぐさま荒れてしまうかも知れない。


少しヒリヒリする手指をさすっていたら、セイレンが小瓶を持ってきて、白い軟膏を塗り広げてくれた。部屋でナディエルから塗られていたものと同じ、羊脂ラノリン蜜蝋ビーズワックスを混ぜたもので、冬場の手荒れを癒すために常備しているラノワルムという軟膏だ。


「あ。ラノワルムは私もお部屋で愛用させていただいています。……でも」


ただ、ここのものは部屋で使っているものと違ってよい香りがしなかった。


無意識に手のにおいを嗅いだリリアンナへ、セイレンが柔らかく微笑む。


「リリアンナお嬢様がお部屋で使っておられるものは、これにローズオイルを付け加えた特別仕様品です。いいにおいがなさいましょう?」


「あ、はい」


「ラノワルムは効果こそ抜群なのですが、少々独特な獣臭がしますのでな。侯爵閣下がリリアンナ様のために特別に配合を整えさせたものが、いつもお嬢様がお使いのものでございます」


セイレンの言葉にリリアンナは瞳を見開いた。


「そんなお手間を……」


軟膏を手配してもらえるだけでもありがたいのに、そんな配慮までされていたのだと思うと少しくすぐったいようなソワソワした気持ちがしてしまう。


「それだけお嬢様がランディリック様にとって特別な存在ということですよ」


セイレンに柔らかく微笑まれて、「後ほどお部屋にいつもの軟膏を取りに戻られてはいかがかな?」と付け加えられたリリアンナは、その言葉に思わず目の前の老医師を見つめる。


「でも……」


「侍女殿の様子も見に行く約束をなさったのでございましょう?」


少し、カイルから離れなさいと、言外に含められているのを感じたリリアンナは、しばし逡巡しゅんじゅんした。

ヤンデレ辺境伯は年の離れた養い子に恋着する

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