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第8話「コザクラの誓い」
風間琴葉の部屋に、新しく置かれた観葉植物。
その鉢の影に、小さな気配がひとつあった。
「……あの、それ、ぼくの場所にしていい?」
声をかけてきたのは、背の低い少年だった。
桃色の髪に、グリーンのインナーカラー。ふわりと丸みのある髪型が、羽根のように軽く揺れている。
ベージュのパーカーに、袖口だけ少し擦れているシャツ。全体的に“居心地”を選んだような、柔らかくて慎重な装い。
琴葉はすぐにわかった。
「……コザクラインコ?」
少年はこくんとうなずいた。
「うん。ペアだった子がね、いなくなっちゃったから。次の場所、探してた」
その言葉に、琴葉の胸がわずかに痛む。
彼女自身も、最近ようやく、終わった恋に整理をつけたばかりだった。
「わたしも、ちょっと前に一人になったの」
「だから来たんだと思う。ぼくたち、ペアを組む習性あるから。たまたま、じゃない」
コザクラインコの少年は、羽織っていたシャツの背中に小さな“裂け目”があるのを見せた。
羽根をしまうための場所だという。
「今は、羽ばたく気分じゃないから、ここで少し……寄り添ってもいい?」
琴葉はそっと、あたたかいお茶を差し出す。
「どうぞ、あなたの居場所に」
少年はそのマグカップに両手を添え、目を細めた。
「一度だけでいいって思ってたんだ。ペアは。でも……もう一度、選んでみようかなって思ったの、今日が初めて」
琴葉の隣で、彼の羽根が小さく膨らむ。
それはまだ、恋の形ではなかった。けれど、恋に至るための**前段階としての“誓い”**は、静かに生まれ始めていた。
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