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11 - 第9話「雪の中のシマエナガ」

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2025年07月12日

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第9話「雪の中のシマエナガ」
それは真冬、琴葉が一人で訪れた北の町だった。

人影もまばらな駅前。風が吹き抜け、雪が斜めに舞っていた。

慣れない寒さのなか、琴葉はうずくまるようにベンチに座っていた。

涙を流した理由は覚えていない。ただ、胸の奥がひどく冷たくて、温かいものを探していた。


「……泣いてた?」


声がして顔を上げると、そこには少年が立っていた。

白いコート、雪と同じようなふわふわのフード。

髪は銀白で短く、顔立ちは幼くも中性的。

首にはマフラーではなく、小さな羽根が織り込まれたスヌードが巻かれていた。


「君、雪に似てるね。きれいなまま、泣くんだ」


「……誰?」


「シマエナガだよ。擬人化、してみた」


少年はやわらかく笑った。


「君、ずっと寒そうだったから。

 このあたりにいる鳥の中で、いちばん君に近いと思って来てみた」


彼はゆっくり隣に腰を下ろす。体温は低くないのに、どこか雪のような静けさをまとっていた。


「わたし……誰かに何かをもらうのが、まだちょっと怖くて」


「うん、でも。ぼくは“あげる”って言わない。

 ただ、“そばにいる”って言うだけ」


琴葉はその言葉に、ほんの少し心が解けるのを感じた。


「……じゃあ、いるだけでいい?」


「うん。いるだけで、君がちょっとあったかくなるなら、それでいい」


シマエナガの少年は、ベンチの上に手を置いた。

そっと、そこに琴葉の指が重なる。

触れても、羽根のように軽い。けれど確かに“あたたかい”がそこにあった。


「きみの涙、雪と混ざって落ちてた。だからたぶん、あれももう、冷たくはないよ」


ふわりと笑った彼のまつげに、小さな雪が舞い降りる。

それは、春よりも先に訪れた、真冬の恋の気配だった。

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