転生少女と教師たち

「そろそろケーキを食べましょうか」

そう言って担任は冷蔵庫へ向かう。今更だけど、予期せずケーキを食べられるなんて大の甘党である私にとっては棚から牡丹餅もいいところだ。…あ、『甘くて美味しいスイーツを何も気にせずお腹いっぱい食べたい！』という念願を、今思い出した。だって、前世では全運動部の活動に駆り出されてスイーツなんて全く食べれなかったもん。よし、今世では叶えてみせる！！

コト、とテーブル上に透明なお皿が二つ置かれた。

「わ」

思わずお皿の上のケーキに釘付けになる。

「成瀬さんのお気に召すと良いのですが…」

チーズケーキだ。…よりによって、私の大好きな。

「お気に召すも何も、知ってたんですか？チーズケーキが一番好きだって」

「いえ。成瀬さんを思ってケーキを吟味していたら自然と選んでいました」

「はぁ……先生はモンブランがお好きなんですか？」

「はい。甘い栗のクリームと共に感じられる香ばしさとほろ苦さに病み付きになってしまいまして」

「へぇ」

返事もそこそこに、愛しのチーズケーキに舌鼓を打つ。あぁ、なんと甘美な味わいっ。

えもいわれぬ幸福である。

そんな私を見てなぜか嬉しそうな担任も、モンブランを口元に運んだ。

「美味しいです、この上なく。成瀬さんがいらっしゃるからですね」

「…」

「成瀬さんも一口いかがですか？」

フォークで掬われた一口サイズのモンブランが私の方へ差し出される。あーんだと！？

「……ま、またそんなこと言って」

「ほう。数多くの異性のお友達と交流されていらっしゃる成瀬さんであればスイーツを食べさせ合うくらい造作も無いことかと存じますが」

「なんっ、な、なんてことないに決まってるじゃないですかっ！！こんなの日常茶飯事ですから(？？)」

ええいっっ！もう知るかっっっ！！

ん…美味い。

意外にも、担任は驚いたように瞳を瞬かせた。え、なんで？

「まさか本当に食い付くとは……からかい半分でしたのに」

っこのヤローーー！！！！！！嗚呼あああああ！！！！！！恥ずいっ恥ず過ぎるっっ！！

「っぐ…………」

暫しの沈黙。私はまるで沸騰したんじゃないかってほど顔中真っ赤だし。…なぜか担任もあーんしたときの体勢で固まってるし。

でもすぐに、悔しさと腹立たしさが沸々と湧き上がってきた。

クソ担任め…人をおちょくりやがって！！絶っ対、ぎゃふんと言わせてやるからな！！

鋭い視線を浴びせるために顔を上げたその時、私の眼はヤツの口の端についたクリームを捉えた。…ふっ、見てろよ担任。

その口元に手を伸ばし、すっとクリームを拭い取る。

どうよっ！こんなに可愛い『成瀬さん』に急接近されて、嬉しすぎて骨も残らないんじゃーー

「ふぁっ！？」

その瞬間、引っ込めようとしていた私の腕は担任によって再び引き寄せられた。指先のクリームが真赭色の熱っぽい舌によって舐めとられる。

「悪戯なさるとは…悪い子ですね、成瀬さん」

「@&%#%\(££€&%€=@€\)€@&&¥?!?!?!?」

不意打ちすぎる。どころか、思いもよらなさすぎる。…っておい、何事もなかった様にモンブランをつつき始めるんじゃない。何なんだコイツは？？？？？？

男性経験のない私に、とんだ衝撃を与えやがって………距離感バグだろこの男。

担任への反撃を仕方なく諦めチーズケーキの最後の一欠片を口の中で溶かすと、濃厚な甘味が舌に絡み付き余韻を残した。同時に、引き寄せられた瞬間に見せた、鈍く耽溺な光を孕んだ瞳が脳裏を掠めていた。