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サッカーオタク
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# 『6番の約束』
大会はまだ終わっていなかった。
三位決定戦。
朝。
彼女は病室で目を覚ます。
熱があった。
体は重い。
でも。
スマホを開く。
「今日は勝つ。」
理由なんてない。
ただ。
そう信じていた。
試合開始。
病室のベッドの上。
画面越しに試合を見つめる。
「頑張れ。」
誰にも聞こえないくらい小さな声。
「頑張れ、6番。」
ホイッスル。
試合終了。
勝った。
三位。
画面の向こうで笑うはるき。
その笑顔を見た瞬間、
彼女も笑った。
「よかった。」
涙がこぼれた。
急いでLINEを開く。
【3位おめでと!】
送信。
少し考える。
もう一通。
【まだもう一個大会あるでしょ!笑】
送信。
返信が来る。
何気ないやり取り。
それだけで幸せだった。
午後。
写真が送られてきた。
表彰の写真。
仲間と笑う6番。
彼女は写真を保存した。
アルバムの名前を変える。
「宝物」
夜。
病室。
静かな時間。
先生が部屋へ入ってくる。
「今日はどうだった?」
「勝ちました。」
「そう。」
先生は少し笑った。
そのあと、
少しだけ沈黙した。
「……検査の結果だけど。」
彼女は先生を見る。
「思っていたより進行が早い。」
「……そうですか。」
驚かなかった。
どこかで分かっていた。
だから。
机の引き出しから便箋を取り出す。
もう一通。
書かなきゃ。
ペンを握る。
『幸せになるんだよ』
そこまで書いて、
手が止まる。
本当は。
そんなこと言いたくない。
本当は。
もっと一緒にいたい。
文化祭も。
卒業式も。
大人になるところも。
全部見たかった。
「戻りたいな……」
初めて弱音をこぼした。
窓の外を見つめる。
涙が止まらない。
「もう一回だけでいいから。」
「普通に学校行きたい。」
「また隣歩きたい。」
「『おはよ』って言いたい。」
誰にも届かない願い。
でも。
泣いたあと、
彼女は涙を拭いた。
「ダメだ。」
「最後くらい。」
「応援団長らしく。」
笑って、
続きを書いた。
『現世は幸せに暮らすんだよ!!』
翌日。
病室の窓から朝日が差し込む。
彼女はスマホを開いた。
はるきとのトーク。
一番下にカーソルを合わせる。
ゆっくり打ち始める。
「幸せになるんだよ」
送信。
少しして返信。
【急になに笑】
思わず笑った。
「最後まで鈍感。」
小さくつぶやく。
もう一度打つ。
「うん。笑」
送信。
それだけでよかった。
数時間後。
もう一通。
指が震える。
何度も打ち直す。
そして、
送信した。
「もう未練はないよだいじょうぶ」
送信。
少し時間を置いて。
最後のメッセージ。
「ばいばい。応援できて嬉しかった」
送信。
画面を閉じる。
スマホを胸に抱く。
涙は出なかった。
全部泣ききったから。
ベッドの横。
引き出しの中には、
二通の手紙。
そして、
付き合った日に撮った一枚の写真。
そこには、
笑いながらミサンガを見せ合う二人が写っていた。
彼女はその写真を撫でる。
「約束。」
自分の手首を見る。
色あせたミサンガ。
まだ切れていない。
「そっちは。」
「ちゃんと幸せになるんだよ。」
それが、
世界一の応援団長、
最後のお願いだった。
病室のカーテンが揺れる。
夏の風が、
静かに部屋へ入ってきた。
その風は、
どこかグラウンドの匂いがした。
第三部 完
コメント
1件
うわっ……第4話、読み終わりました。 もう、胸がぎしぎししてます…… 熱があるのに試合を見届ける彼女の「応援団長」としての強さが、すごく響きました。 「宝物」アルバムのくだりとか、弱音をこぼす第十二章とか、泣けます。 「もう一個大会あるでしょ!笑」って送れる余裕も切なくて、でもめちゃくちゃ好きです。 愛さんの描くこの静かな諦観のなかにある優しさ、すごいと思います。 最後まで応援したくなる物語でした。 第三部、完お疲れさまです、愛さん。🌙💌 つらかったですね、これ……読んでるこっちも胸が苦しくなりました。でも、ちゃんと届きました。大事な話をありがとう。🤍🥀