「尊さん、そこまで和食がいいんですか?」
「いやー、単なるゲームだよ。『どっちにする?』って話をしてて、キッチンには和食でも洋食でも、中村さんに食べさせたいあれこれがあるんだとさ。『じゃあ、ゲームで決めよう』っていう事になり、なぜかじゃんけんとかじゃなく、俺がトランプタワーを作れるかどうかになった。……あいつは今頃、優雅に風呂の中だよ」
「涼さん、意外と自由人なんですね」
「意外とじゃなくて、見たままだろ」
尊さんは横を向いて溜め息をつく。
「どっちでもいいなら、ここまで頑張る事ないのに」
恵は離れた所に座り、クピクピと水を飲む。
「だよなー、俺も思う。でもチャレンジしてみたくて」
「おっ、いいね! やってみる精神!」
私は尊さんの横に座って彼がトランプを積んでいく様子を見守る。
「朱里もやってみるか?」
「え? 私、がさつだし、絶対崩すからいいですよ。せっかく尊さんが積んだの、壊したくない」
「だから和食にそれほどこだわりはないし、試しにできるかどうかやってるだけだって。ほれ」
そう言って、尊さんは私にカードを二枚持たせる。
(セレブってなんのトランプ使ってるんだろ)
不意にそう思ってカードを見てみると、そこにはボッテガヴェネタと書かれてあった。
(ひい)
「横に置くだけなら難易度が低めだと思うから、そこの三つの山の上に、トランプを二枚横に置いてみ」
「ええ~……」
私はドキドキしながら立ちあがり、呼吸を鎮めてトランプタワーに向き合う。
そして顔を近づけてそーっとトランプを重ねようとした時――。
「朱里、胸」
恵の声がしたかと思うと、まだトランプに触ってもいないのに、バシャッと土台がすべて崩れてしまった。
私は両手にトランプを持ったままポカーンとし、尊さんも目を丸くしている。
「ああ……」
恵は顔に手を当て、天井を仰いでいる。
「……また乳大暴れか」
尊さんはクスクス笑い、そのうちツボに入ったのか突っ伏して体を震わせ始めた。
「ごっ、ごめんなさい!」
「いいって」
「パン大好きだから! パン!」
「朱里はさっき、パンツ食べてたでしょ」
恵の突っ込みを聞き、尊さんは「助けてくれ」とヒイヒイ笑い続けた。
やがて涼さんがお風呂から上がり、寝る前に明日の話をする。
「朱里ちゃんは尊が事情を知っているからいいとして、恵ちゃんは上司に連絡した?」
「はい」
「もしかしたら家政婦さんが来るかもしれないけど、特に手伝ったり、変に気を遣わなくていいから。ホテルのルームキーパーと同じ」
私と恵はコクンと頷く。
「一日家にいると暇かもしれないけど、心配だからなるべく外には出ないでほしいかな。マンション内のパブリックスペースの探検とかならいいけど」
「大丈夫です。漫画読んでます。インドア大好き」
「私も、一日ぐらい全然平気です」
私と恵は口々に言い、心配するなと伝える。
「……なんか、拾いたての猫をお留守番させる気持ちに近くて……」
涼さんが言い、尊さんが「分かる」と笑い崩れる。
「高級クッションの綿を出したりしませんよ」
「テーブルの上にある物、全部落としたりしません」
「「やりそう!」」
猫仕草を言うと、二人はドッと笑った。
「昼食はデリバリーをとってもいいし、冷蔵庫の中にある物を食べてもいいよ。あっ、家政婦さんに何か作ってもらうように言っておくか」
そう言って涼さんはスマホでトトト……とメッセージを打ち始める。
「そんないいのに……。カップ麺でもあったら食べるのに。ねー」
「うん」
私は恵と顔を見合わせて頷く。
……と、尊さんがギュッと抱き締めてきた。
「ん?」
目を瞬かせると、彼はよしよしと私の頭を撫で、背中をポンポンする。
コメント
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お留守番の 自由奔放な猫たちを心配する、過保護な飼い主たち....😺🐈️💕💕😂www
猫2匹に、、なった??(笑)😽❤