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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第137話:生体クレーンと需品科の極致。村の広場にそびえ立つ『伝説のやぐら』
真夏の太陽がジリジリと照りつける、十勝の限界集落・旧神社前広場。
かつて村の夏祭りの中心地であり、十年前に祭りが消滅してからは背丈ほどもある雑草に覆われていたこの場所が、現在、驚異的な速度で『制圧(整地)』されていた。
「キュンッ!」「コンッ!」
キタキツネのコン吉とコン次郎が、器用に前足を使い、地面に落ちている小石や木の枝を咥えては広場の隅へと集めている。
『ミャウ(そこ、まだ少し雑草が残っているわよ。徹底的にやりなさい)』
広場を見渡す切り株の上では、現場監督のオーラを放つ純白の神獣シロが、尻尾で的確な指示を飛ばしていた。
「お兄さん! 森林組合の方々から、大量の木材が届きましたよ! 『台風の時のお礼に、祭りに使ってくれ』って!」
麦わら帽子を被った小春ちゃんが、広場の入り口を指差した。
そこには、村の林業に携わる男たちがトラックで運んできた、皮を剥がれた美しいカラマツやヒノキの間伐材が、山のように積まれていた。
「……ありがたい。最高のロジスティクス(物資調達)だ」
俺は首に巻いたタオルで汗を拭い、積まれた丸太の山を見上げた。
夏祭りにおける『やぐら』は、単なる建造物ではない。人々の視線を集め、祭りの熱気を統率するための『絶対的な指揮所(コマンドポスト)』だ。
「だがお兄さん……こんな太い丸太、どうやって組み立てるんですか? クレーン車なんてこの村には……」
小春ちゃんが不安そうに首を傾げた、その時だった。
ズシン……! ズシン……!!
広場の奥の森から、地響きを立てながら『それ』が現れた。
「グルォォォォ……!(任せな、大将。俺の出番だろ)」
体長三メートルを超える、我が家のレギュラーである巨大ヒグマだ。
ヒグマはのっしのっしと丸太の山に近づくと、直径三十センチ、重さ数百キロはあろうかというメインの柱材を、まるで爪楊枝でも扱うかのように両腕(両前足)で軽々と抱え上げた。
「なっ……!? ク、クレーン車代わりにヒグマさんを使うんですか!?」
「当然だ。内燃機関(エンジン)を持つ重機が手配できないのなら、圧倒的な筋力を持つ『生体重機』を運用する。これが需品科の臨機応変な陣地構築術だ」
「グルォッ!!」
巨大ヒグマが二本足で直立し、抱え上げた長大な丸太を垂直に立てる。その高さは、ゆうに五メートルを超えていた。
「よし、固定に入るぞ!!」
俺は腰に大量のロープと工具をぶら下げたまま、垂直に立てられた丸太に向かってダッシュし、忍者のような身のこなしで一気に五メートルの頂上まで駆け登った。
釘は一本も使わない。
陸上自衛隊『需品科』で叩き込まれた究極のロープワーク――『ねじり結び』と『角しばり』を駆使し、ヒグマが次々と持ち上げてくる梁(はり)となる丸太を、ミリ単位の狂いもなく空中で結束していく。
シュババババッ!!
俺の手が残像を描くたびに、太い丸太同士が鋼鉄のように強固に結びつき、何もない空間に巨大な木造の骨組みが組み上がっていく。
「す、すごい……! お兄さん、本当に人間ですか!? なんでヒグマさんと息がピッタリなんですか!!」
ジンバルにセットされたiPhone miniのカメラを構えながら、小春ちゃんが信じられないものを見るような声を上げた。
だが、驚愕しているのは彼女だけではない。
一千万人の同接視聴者たちが見守るチャット欄は、この『重機レス・ヒグマ・アーキテクチャ』という世界初の工法に、完全に理性を吹き飛ばされていた。
『ヒグマがクレーンやってるwwww』
『生体重機ってそういうレベルじゃねぇだろ!!!』
『主のロープ結ぶ速度がバグってる! スパイダーマンかよ!』
『シロ様が現場監督で、ヒグマがクレーンで、キツネが清掃員……最強のゼネコン爆誕ww』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Unbelievable! A bio-crane and perfect rope work! Master, you are the greatest architect in the world!“(信じられない! バイオクレーンと完璧なロープワーク! 主よ、君は世界最高の建築家だ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)=”I’m canceling the Hollywood set designers! Nature and Master’s skills are already the ultimate art!“(ハリウッドの美術チームはキャンセルするわ! 大自然とマスターのスキルこそが究極のアートよ!)』
世界中のVIPたちが、圧倒的な大自然の力と俺の建築スキルの融合に感動し、極彩色のスパチャを乱れ撃ちにする。
そして、作業開始からわずか一時間後。
「……よし。最終安全確認、完了。第一種夏祭り拠点(やぐら)、完成だ」
俺が頂上から軽やかに着地すると同時に、村の広場の中央には、高さ五メートル、二層構造の、美しくも荘厳な『巨大やぐら』が堂々とそびえ立っていた。
ヒノキとカラマツの爽やかな香りが、夏の風に乗って広場に満ちていく。
「グルォ(いい仕事だったぜ)」
「キュンキュンッ!(お疲れ様ー!)」
ヒグマが満足げに腕を組み、キツネ兄弟が俺の足元でピョンピョンと跳ね回る。
「……すごいです。本当に、一瞬で立派なやぐらが……」
小春ちゃんが、完成したやぐらを見上げて感嘆のため息を漏らした。
その背後では、様子を見に来た農家のおばあちゃん達が「おおお……十年ぶりのやぐらだ……」と、すでに涙ぐみながら手を合わせている。
「さて。拠点の設営という重労働(ミッション)を終えた今、直ちに消費したカロリーを補填しなければならない」
感動に包まれる広場のど真ん中で、俺は折りたたみチェアに座り、おもむろに保冷バッグからいつものタッパーを取り出した。
中身は、完璧な水加減で炊かれた『冷やし玄米』と、自家製の『大豆ミートと夏野菜のそぼろ丼』である。
「……いただきます」
俺は、神聖なやぐらと涙を流すおばあちゃん達を背景に、一切の感情を排した元・社畜の顔で、ストイックに大豆ミートを咀嚼し始めた。
「ちょっ、お兄さん!? なんで村の人たちが十年ぶりのやぐらに感動して泣いてる最高のタイミングで、真顔で大豆のそぼろ丼食べ始めるんですか!?」
小春ちゃんが目を丸くしてツッコミを入れるが、俺は咀嚼を止めない。
「当然だ。巨大建築物の設営という異常なカロリー消費を補い、筋繊維の回復を促すためには、このタイミングでの大豆プロテインの摂取が不可欠だ。どれほど感動的な光景を前にしても、己の兵站(ロジスティクス)を最優先する。これが需品科の鉄則だ」
俺は冷たいほうじ茶で喉を潤すと、カメラの前に向き直り、キリッとした真顔でいつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。私がヒグマと協力して、村のお年寄りたちのために涙を誘う感動的な『やぐら』を建てたと思われているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『この歴史的建築と感動の嵐の中で、まだ言い訳するのかこの男は!!!』
『主の限界言い訳タイム・生体クレーンやぐら建設編ww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは、夏祭りのためのやぐらなどという娯楽施設ではありません。最近運動不足気味だったヒグマの背筋と広背筋を鍛えるための『高負荷ウェイトトレーニング用ジャングルジム』です。私が木を組んでいたのも、ヒグマの筋力に合わせて適切な重量バランスを計算し、筋肥大を促すための生体力学的サポートを行っていただけです。ええ、ただの『野生動物のパーソナルトレーニング』と『巨大なアスレチック遊具の設営』が偶然重なっただけですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、建築で余っていた『差し金(L字型の定規)』で、俺の背中にパーフェクトな直角スマッシュを見舞った。
「高負荷ジャングルジムってなんですか!! どこの世界に、パーソナルトレーニングのために丸太を垂直に持ち上げて五メートルの塔を作るヒグマがいるんですか!! どう見たってお兄さんの圧倒的スキルとヒグマさんの優しさで完成した奇跡のやぐらでしょうが!! 素直に『おばあちゃん達のために本気出した』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんの差し金スマッシュ炸裂ww』
『高負荷ウェイトトレーニング用ジャングルジム(立派な祭りのやぐら)』
『野生動物のパーソナルトレーニング(ヒグマの生体クレーン)』
『適応力バグおじさん、ついに村のやぐらまでヒグマの筋トレ器具のせいにするww』
『言い訳のスケールが建築基準法スレスレで草ww』
俺の理不尽極まりない生体力学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレの差し金ツッコミに、一千万人の視聴者たちは感動の涙を完全に吹き飛ばし、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(まったく、素直じゃない大工さんね)』
シロが、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を輝かせながら完成したやぐらの最上階にいつの間にか登り、村全体を見渡しながら心地よさそうに喉を鳴らした。
「……まぁ、理由はどうあれ。これで祭りの中心(コア)は完成した」
俺は背中の直角の痛みをさすりながら、夏の青空にそびえ立つ、真新しいやぐらを見上げた。
十年の時を経て、限界集落の広場に復活した希望の塔。
もふもふ達の規格外のサポートと、需品科の圧倒的スキルが融合した『オペレーション・フェスティバル』の準備は、大爆笑と温かい涙に包まれながら、祭りの本番に向けてさらに熱く加速していくのだった。
コメント
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うわっ、めっちゃおもしろかったです…!ヒグマさんが生体クレーンになって、オッドアイのシロ様が現場監督って、もう絵面が強すぎます😂 でも、それ以上に一番グッときたのは、「どう見たって奇跡のやぐら」なのに平然と「ただの筋トレ用ジャングルジム」って言い訳するところ。真顔で大豆そぼろ丼食べてるギャップやばいですwww 小春ちゃんの差し金スマッシュ、めっちゃ清涼感ありますね🤍 十年ぶりにやぐらを見て涙ぐむおばあちゃんたちのシーンもすごく温かくて、笑いと感動がちゃんと両方あって、すごく好きな話でした。続き、楽しみにしてますね。おつかれさまです🌙