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第18話 映画監督の影
配信
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
画面に現れたまひろは、今日は灰色のパーカーにベージュの半ズボン。袖口からは小さなキャラクターのキーホルダーをのぞかせており、ぱっつん前髪の下の大きな瞳は無垢に光っていた。
隣のミウは、ベージュのブラウスに深緑のロングカーディガン、淡いラベンダー色のスカート。髪はゆるやかに結び、耳元には小さなしずく型のイヤリング。やわらかい笑顔でカメラを見つめていた。
まひろがパーカーの裾をいじりながら口を開いた。
「ねぇミウおねえちゃん。ぼく、最近ある映画監督さんの名前をよく聞くんだ。すごい賞を取ったりして、作品も感動的で……ぼくも好きなんだけど……」
コメント欄が盛り上がる。「あの監督かな?」「すごい才能だよね」と視聴者の反応。
「でもね、撮影のためのお金の使い方とか……なんだか変だって聞いて……ほんとなのかなぁって心配になっちゃった」
疑惑の芽生え
ミウがふんわり笑って首をかしげる。
「え〜♡ すごい映画を作るのは素敵だけどぉ……もしお金の流れがきれいじゃなかったら、ちょっと悲しいよねぇ」
まひろは小さくうなずき、無垢な声で言う。
「ぼくはただ、“ほんとに安心して応援していいのかな”って思っただけなんだ」
コメント欄は「資金って気になる」「業界って裏があるのかも」とざわつき始めた。
レイNews記事化
その夜、「レイNews」には記事が並んだ。
1. 世界的映画監督K氏、“裏金疑惑”が浮上
2. 匿名のスタッフ証言『制作費が一部消えていた』
3. 過去の会計資料を検証 “不自然な支出”の痕跡
4. SNSで拡散『受賞作の影に不透明な金』
5. 文化庁助成金の使い道に疑問、行政にも波及か
記事は数字を引用して冷静に見せていたが、比較に用いたデータは全く別作品のもの。読者に「お金が消えた」印象を与えるよう操作されていた。
裏でミウは、過去の助成金報告書を無理やり繋げ、まるで監督が不正をしているかのような構図を作っていた。
群衆の暴走
翌日SNSは「#裏金監督」で溢れた。
「才能はあっても不正は許されない」
「作品は素晴らしいけど、人としてはどうなの?」
まとめサイトは「映画監督の影」と見出しを打ち、ワイドショーは街頭インタビューで「裏切られた気がする」と一般人の声を流す。
配給会社は公開予定だった映画の宣伝を縮小し、スポンサー企業は協賛を撤退。映画祭からも招待取り消しが相次いだ。
クライマックス
数日後、映画監督K氏は「裏金など存在しない」と記者会見で否定した。
だが、翌日の記事はこうだった。
「否定会見=やましいから?」
真実を語っても、それは“疑惑を強める証拠”として利用された。
結末
夜の配信。
まひろは灰色のパーカーの袖をぎゅっと握り、無垢な瞳でカメラを見つめた。
「ぼく……ただ“安心して応援できるのかな”って思っただけなのに」
ミウはやさしく頷き、ふんわりと笑った。
「え〜♡ でも、みんなで考えるきっかけになったんだから素敵だよね。
ほんとの映画は、人の心を動かすものであってほしいもん♡」
コメント欄は「真実を知れてよかった」「考えるって大事」と埋め尽くされた。
その裏で、ミウのPCには次のターゲットの見出しが並んでいた。
「スポーツ界の英雄の裏」「文化人の過去発言」「教育現場の不祥事」。
記事の枠はすでに整っていた。
> 無垢な声とふんわり同意、その裏でひとりの映画監督の名声は静かに塗り替えられていった。