「頼むよ、幾ヶ瀬。あの部屋、元はといや姉ちゃんの部屋だし。どうしようっ! グチャグチャにしてたら姉ちゃんキレる。殺される! 残酷な方法で殺される!」
「だから言ってんじゃん、有夏。日頃からきちんと整理整頓して散らかさないようにって。散らかしたとしても、その時にきちんと片付けてたら慌てる必要ないんだからね?」
「それを今、この状況で言うかっ!」
「ご、ごめん……って、何で俺が悪いみたいになってんの?」
「ゾヴジのズベジャリズドぉぉぉぉ……」
「もういいって、それは。それにあのゴミ屋敷は2日程度じゃどうしようもないってば。で、お姉さんってどれ?」
どれとは失礼な言い方だが。
「|響華《キョウカ》姉だよ」
「えっと……」
「上から2番目の」
「ああ……。有夏んとこって、えっと……何人お姉さんがいるんだっけ」
恐ろしい話でも聞いたかのように有夏がますますしがみついてくる。
「ろ……ろくにん。いや、六匹!」
「そうそう、麗しの六華(リッカ)姉妹だ。小学校の時から、学区違うのに超有名で。本当に6人共、有夏とそっくりだよね」
そっくりだという綺麗な顔を、有夏は思い切り歪めた。
「何が麗しのだ。六匹の本性、誰も知らねぇんだ」
「匹って……実のお姉さんたちでしょ。ええと……六華姉妹、名前が面白いんだよね。何だっけ?」
否定されたと感じたか、有夏が唇を尖らせる。
それでも幾ヶ瀬の問いに対しては指を折りながら答えた。
「麗華(レイカ)、響華、涼華(スズカ)、結華(ユイカ)、愛華(マナカ)、百華(モモカ)……で、有夏も元は有華だったんだとよ。女の名前しか考えてなかったんだって。んで、男が産まれたから華はあんまりだって夏に変えたってよ。うちの親、アホだから」
「そうなんだ。男なのに可愛い名前だなって思ってたんだよな。まぁ中身もカワ……」
「何も可愛くねぇよ。あの六匹はモンスターだ。甚だしい奇行種だ。有夏はただ……恐ろしいだけだ。死ぬ……」
幾ヶ瀬の膝の上で、有夏はさめざめと泣き始めた。
「奇行種なんだ……」
「うん……」
たぶん「奇行種」というワードを使いたいだけなんだろうなと、幾ヶ瀬の苦笑。
「有夏の実家、知ってんだろ。狭い団地なんだよ。4畳半の部屋3つと小っさい台所しかなくて。そこに姉ちゃんら6に……匹と有夏、あとお父とお母の9匹……人で住んでて……」
「うんうん。もう『人』で統一しなよ」
背を撫でながら聞いてやる。
あまり裕福ではない胡桃沢家だったが、両親の仲の良さと、子らの美貌は近隣でも評判だった。
だが、容姿は美しくても内面は色々あるようで。
「姉ちゃんら家ん中、全裸でノッシノッシ歩いて、いきなり取っ組み合いのケンカ始めるんだ。こう……いきなりグワッとつかみかかる感じで。予測不能な動きで、毎日どこかが揉めてて。有夏はとにかく怖くて……」
「う、うん……」
高校卒業までいた自宅の辛い日々を思いだしたか、有夏の表情が沈む。
ミバの良い末弟は、パワフルな彼女たちにとって格好のオモチャだったらしく、ベロンベロン舌を入れてキスをされたり、弟の性器をわしづかんでそのサイズを馬鹿にしたりという──そのあたりはさすがの有夏も言いにくそうにしていたが。
「ベロンベロン……」
幾ヶ瀬が目を見開く。
減るもんじゃねぇだろ。やわらけー、弟のクチビルぅとか言って次々襲われる少年有夏を想像したに違いない。
【つづきは明日更新します】
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