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コメント
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今回も最高です👍👍👍 次回も楽しみにしてます🥰
中等部棟の1年A組。窓際の席に座る元貴は、真新しい教科書を机に広げながら、耳元を指で軽く押さえていました。
先生が黒板にチョークを走らせる「コツコツ」という硬い音。静まり返った教室で、誰かがノートをめくる「カサリ」という乾いた音。
それら一つひとつが、元貴の過敏な耳には鋭く響きます。
「……っ」
思わず身を固くしたその時、隣の席から、そっと何かが差し出されました。
それは、小さく折りたたまれたメモ帳の切れ端でした。
『大丈夫か。無理すんな。』
送り主は、通路を挟んで隣に座る滉斗です。彼は前を向いて先生の話を聞いているふりをしながらも、その意識のすべてを元貴に向けていました。
元貴は震える手で、そのメモの裏に小さく『ありがとう』と書き込みました。それだけで、耳の奥のちくちくとした痛みが、少しだけ和らぐような気がしました。
2時間続きの授業が終わり、チャイムが鳴った瞬間。
教室は一気に、生徒たちの解放感あふれるお喋りと、机を下げる騒音で溢れかえりました。
「……あ、……」
元貴が耳を塞ごうとした瞬間、教室の入り口から、ふわりと場を和ませるような声が響きました。
「はーい、お疲れ様! 1年生の初めての授業、みんな頑張ったねぇ」
高等部4年生の制服を着た涼架が、大きなタッパーを抱えて立っていました。
本来、休み時間に高等部の生徒が中等部の教室に来ることは珍しいのですが、涼架の持つ独特の「許されキャラ」と、先生たちからの信頼の厚さがそれを可能にしていました。
「涼架さん!? なんでここに……」
驚く滉斗を横目に、涼架は元貴の席まで足早にやってくると、彼の両耳を自分の温かい手でそっと包み込みました。
「元貴、大丈夫。今、外は風が強くて窓がガタガタ言ってるから、余計に気になっちゃったんだよね。はい、これ、耳栓の代わりの魔法」
涼架の手の温もりが、元貴の耳に届く刺々しい騒音を遮断してくれます。
「次の休み時間は、ホールにおいで。僕の友達から、一番静かな席の予約を取っておいたから」
涼架はそう言って、元貴の緊張を解きほぐすように笑いました。
実は涼架は、中等部の授業開始に合わせて、わざわざ空き時間を利用して様子を見に来てくれたのです。
「滉斗、元貴を連れてきて。3人で一緒にお昼ごはん食べよう」
「……はい。ありがとうございます、涼架さん」
滉斗は、涼架が去った後の入り口をじっと見つめ、それから元貴の肩をそっと抱きました。
「……最強だな、あの人は」
「うん。……でも、ひろとのメモも、すっごく嬉しかったよ」
元貴の顔にようやく笑みが戻りました。
厳しい「初めての授業」も、守ってくれる騎士と、導いてくれる優しいお兄ちゃんがいれば、なんとか乗り越えていけそうな気がした、春の午前中でした。
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