岩本の家。
仕事前の佐久間が来ている。
貸したままだったCDやらDVDやらをまとめて引き取りに寄ったのだ。
何度か来たことのある佐久間は、勝手知ったるもので、ずかずかと部屋に上がり込む。
🩷久々に来たわー
💛そうだっけ?
🩷お前、SASUKEだSASUKEだって言ってめちゃめちゃ付き合い悪くなったし
💛それは…ごめん
🩷うそだよ(笑)まじめか!
佐久間は笑う。
岩本と佐久間はもともと仲が良い。
深澤と岩本が「いわふか夫婦」と言ってファンになじまれているように、冠番組で佐久間が岩本と自分のことを「ニコイチ」と称したことがきっかけで、こちらも「ニコイチ」コンビと呼ばれている。
深澤も佐久間も岩本にとって頼りになる親友だ。
二人とも岩本より年上で、岩本から見て大人だなと思うことがたびたびある。
一見頼りにされているようで、実は頼りにしているのは自分の方かもしれないと岩本は思っている。
そういえば翔太も年上だ。
こちらはあまり意識したことはなかったが。
岩本は渡辺のことを考えると以前より胸が熱くなるのを感じる。
実を言うと渡辺への想いは日に日に岩本の中で募るばかりだった。
だから渡辺が崖から滑落したと聞いた時には正直生きた心地がしなかった。
愛する人と過ごせる時間は当たり前なものではないのだと思い知った。
目黒には悪いが、あの時目黒に守られている渡辺を見て、どうしようもなく嫉妬した。
一秒でも早く二人を引き離したいと思った。
俺の翔太から離れろ。
自分からは渡辺に何も伝えられてないのに、いつの間にか驕った独占欲が岩本の中にしっかりと根を下ろしている。
しかし実際は岩本は渡辺と面と向かって話せていない。
それどころかそんな機会すら作れないでいた。
メンバー全員で仕事をすることもあるので、全く顔を見ないというわけではないが、渡辺の隣りにはいつも守るように目黒がいる。
渡辺も自分からはなぜか積極的に岩本に近寄ろうとしない。
岩本にはそれが寂しかったし、ある意味自信を失くしてもいた。
もともと距離感の近い二人ではないから、意識しないと近づくこと自体が難しい。
それに岩本としては、深澤の視線も気になるのだった。
深澤を泣かせてしまった負い目は、今も岩本の胸にしこりとなって残っている。
💛コーヒーでも飲んでく?
🩷じゃ、ブラックで
💛まじ?
🩷うそ
💛砂糖入れる
🩷さんきゅ
岩本はブラックコーヒーが飲めない佐久間に多めに砂糖を入れたコーヒーを出す。
佐久間はそれでも苦そうに顔をしかめている。
砂糖大盛り3杯も入れたのに。
岩本はくすり、と笑う。
佐久間がそれを見て悔しそうにする。
二人でしばらく他愛のない話をする。
岩本は慣れ親しんだ二人の空気感に心地よさを感じていたが、突然、思い出したように佐久間が話し出した。
🩷そういや俺、深澤から聞いた
💛何を?
🩷深澤の失恋の話
💛……
🩷まあ、俺はどっちの気持ちもわかるから
💛いくら佐久間でもプライベートのことに口を挟んで欲しくないかも
岩本がやんわりと話を終わらせようとすると、佐久間は言葉を被せてきた。
🩷俺が昔お前に告った時のこと覚えてる?
💛………
🩷お前が好きなやつって、深澤じゃなかったんだな。俺、ずっと勘違いしてたわ。
💛………
🩷本当に好きなやつとはうまくいくのか?
💛わからない
🩷どうせ照のことだから、またああだこうだとつまらないことを考えてるんだろ?
💛何のことだよ
岩本は少しむっとする。
🩷今後のみんなのこととか
💛それは考えるだろう、俺はリーダーなんだから
🩷でもその本音は結局深澤のこととか、蓮のことなんじゃないの?
コーヒーを口に持って行こうとしていた岩本の手が止まる。
🩷逃げるなよ
💛は?
🩷お前がはっきりしないからこうなってるんだよ、ほんとに男らしくないな、お前は。
思わず佐久間を睨みつける岩本に、佐久間は怯まずに言った。
🩷深澤も蓮も自分に正直なのに、逃げてるのはお前だけだ。
💛逃げてる…?俺が?
🩷違うか?
考えてみたこともなかった。
グループのためとか人間関係を拗らせないためとか言いながら自分は逃げていたのだろうか。
岩本は佐久間の言葉に痛いところを衝かれていた。
🩷そんなに怖いんなら、翔太のことはさっさと諦めて、後は蓮に任せろ
💛それは嫌だ
初めてはっきりと言葉に出た。
佐久間はにやりと笑う。
岩本は衝動的な自分に驚く。
🩷答えはもう出てるじゃないか。照、けりを付けろよ
岩本は少し間を置いて自分の想いを反芻した後、口を開いた。
💛俺にできるかな…?
自信なく佐久間を見る岩本に、佐久間は穏やかに優しく言った。
🩷少なくとも俺は、照が一番好きな人と一緒にいてほしいと思ってるよ。
💛佐久間…
🩷もういい加減、深澤も蓮も、ラクにさせてやれ
💛………わかった。ありがとう
佐久間は言いたいことを言ってしまうと、さっさと荷物を持って出て行く。
俺にできることはここまで。
佐久間は、車に乗り込み、かつて恋をした人の幸せを願っている。
岩本は佐久間を見送ると、携帯に入っているスケジュールを見直して何やら考え込んでいた。
コメント
5件
さっくぅぅぅん!お主も好きだったのね!?モテモテひーくんどうするのぉ…!😭