「……昭人とエッチして、手でされて痛いけど我慢して、挿入してもガンガン突かれて痛くて、終わったあとはあそこがヒリヒリしてました。凄く雑に扱われた気持ちになって、体も心も消耗して癒しがほしいなと思って、イチャイチャしたかったんです。……でも『そういう気分じゃない。お前は動かないからいいけど、俺は疲れてるの』って言われました。……その通りなんでしょうけど、なんだか寂しかったな……」
尊さんは溜め息をつき、「まぁ予想の範疇かな」と呟く。
「だから『男性も大変なんだ』って思って賢者タイムについて調べて、男性の体のメカニズムを頭に叩き込みました。私だってPMSでイライラしちゃう時があるし、性差で理解しきれないところがあるのは仕方ないよな……って」
「けど、田村クンは朱里のPMSに理解を示してくれたわけ?」
尋ねられ、私は苦笑いして首を横に振った。
「……昭人は外面はいいから『俺は女性に理解があるよ』ってフリはするんです。そういう話題になった時も『女子は大変だよね』って言ってくれていました。でも実際、私がイライラしたり、情緒不安定になったら面倒がってデートも延期して、顔を合わせないようにしていました。収まった頃になって何事もなかったように普通に接して……。……まぁ、イライラされると面倒だって気持ちは分かるんですけどね」
私の言葉を聞き、尊さんは溜め息をつく。
「俺は必要があれば〝アルテミス〟を朱里と共有したいぐらいだけど、さすがにキモいって言われそうだから自重してる」
「あはは、尊さんらしい」
〝アルテミス〟は月経や体調などを記録するアプリだ。
可愛いイラストの月の女神〝アルテミスちゃん〟が色々ガイドしてくれるので、私も気に入っている。
生理が近くなったら通知で教えてくれて、アルテミスちゃんが『体調に気をつけてね』とアドバイスをくれるのだ。
他にも女性ならではのお悩み掲示板とか、アバターを作っての交流とか、色々あって面白い。
それはいいとして、「彼氏とアルテミスを共有してる」っていう話は、まあまあよく聞く話ではある。
「別に尊さんなら気持ち悪くないから、いいと思いますけどね」
「まあ、PMSの時期をあらかじめ知れたら、ある程度カバーできるからいいかな、とは考えていた」
「うん、じゃああとでID教えますね」
こういう話を穏やかにできるのも、尊さんの為人を知っているからだ。
同じように付き合っている相手でも、昭人だったらアプリを共有しようと思えたかは分からない。
(……昭人だったらアプリを入れるだけ入れて、忘れてそう。忘れた頃にアプリを開いてログインできなくなって、そのままになってそうだな……)
加えて彼は女性向けのアプリを入れて、悩み相談の掲示板をちょっと下卑た目で見ていそうな気がして、見せる事自体に拒否感を持っていたかもしれない。
その点、尊さんならまったく心配がない。
「朱里ってまじめだよな。相手の事を理解しようとして、ネットであれこれ調べものをするぐらいには」
尊さんはクスッと笑い、手で水鉄砲をすると私のデコルテの辺りに掛けてくる。
「人は基本的に理解し合えないですからねぇ……。知識を得て『こうなのかな?』って思うぐらいが関の山です」
私はモソモソと移動し、尊さんの膝の上に向かい合わせで座る。
「だから裸の付き合いをして、じっくり語り合って、少しずつ分かり合っていくしかないんですよ。『尊さんは思ったよりおっぱい星人だな~』とか」
言いながら、私は彼の顔を胸で軽く圧迫する。
「こら」
「おっぱい好きなんですよね?」
「……嫌いじゃないけど。…………いや、好き」
「これが本当の圧迫面接」
「ぶふっ……。誰が上手い事を言えと」
二人で笑ったあと、充分温まったのでお風呂から上がり、尊さんが責任をもって最後まで猫洗いをするため、ドライヤーもしてくれた。
お風呂を出ると二十一時過ぎになっていて、私は麦茶を飲みながらスマホをチェックする。
リビングではビル・エヴァンスのピアノジャズが流れていて、間接照明のみになった空間はお洒落なバーのようだ。
尊さんは一人掛けのソファをリクライニングさせ、ホットアイマスクをしつつ何やら考え事をしていた。
多分、彼は速水家に行った事について色々考えているんだろう。
その胸にあるのは、単純に「嬉しい。これからは親しくやっていける」だけではないと思う。
だから私はあえて話しかけず、彼に静けさを提供していた。
コメント
2件
↓ひーこちゃんほんとそう思うわ。 世の中のどれくらいの男性が理解しようとしているか。寄り添うってこういことも含めてだなってつくづく思った。
素敵な関係だなぁ。パートナーと身体のリズムを共有できるなんて☺️