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それから二日後、『暁』は厳戒態勢を敷いたまま不気味な沈黙を保っていた。しかし隊員達にはどこか悲壮感が漂い、それに合わせて『黄昏』では『暁』代表の少女が死亡したのではないかとの噂が流れ始めた。
同時に『黄昏商会』の取引量も減少しつつあるとの噂が流れ、それは『暁』の終焉を予測させるものであった。
「これ以上の様子見は必要無ぇだろう!?明らかに『暁』の動きが鈍ってる!今を狙わないでいつ動くんだ!?」
テーブルを叩きながら吠えるのはシダ。三者連合の秘密会合に於いて、彼は痺れを切らしていた。
「まだだ、せめてあの小娘の死体を確認できるまでは動くべきではない」
それを冷めた目付きで見るのはリンドバーグ。
「お二方、落ち着いてください。私個人としても攻勢に賛成させてください」
間に入ったヤンが珍しく攻勢に賛意を示す。
「ほう……君は冷静だと思っていたのだが、私の買い被りだったかね?」
「そうではありません、リンドバーグさん。ただ、ここに籠ってから仕事がないんです。皆にも生活がある」
「部下を統制できないと?」
「はははっ、私達荒波の歌声は労働者の集まりです。彼らは部下ではない。ですが、仕事を失いそうになったので参加させていただいたのです。もちろん、相応の働きはお約束しますよ?」
「なあ、リンドバーグ。てめえの慎重さにはうんざりしてるんだ。それでも俺達は三者連合、抜け駆けをしねぇように我慢してる。けどな、手下達の手前もある」
「ふむ……確かにずっと潜むのは……あちらの反応を見る必要があるか。良いだろう、限定的な攻勢を行おうじゃないか。各組織から人員を出して、手薄な港湾エリアの第三桟橋周辺に攻撃を仕掛けてみよう」
「うしっ!」
「港湾については私達が一番詳しいと自負しておりますので、お任せを。ただ、間違っても『海狼の牙』のエリアに手を出さないように気を付けなければいけませんよ?」
「わかってるよ、ヤン」
三者連合は各組織から人員を抽出、港湾エリア第三桟橋周辺で限定的な行動を開始した。
一方『暁』は港湾エリア滞在の人員を更に減少させ、三者連合の暴走を誘発する。そしてこれには効果がすぐに現れた。
「なんだ、誰も居ねぇじゃねぇか!今のうちに倉庫を奪っちまおう!」
「まてまて!そんな指示は受けてない!今回は様子見だろ!?」
「黙ってろ腰抜けが!俺達だけでもやるからな!」
ここでシダ・ファミリーの構成員とリンドバーグ・ファミリーの構成員に意見の対立が発生。荒波の歌声の構成員達は労働者に過ぎず双方の対立を見て右往左往するしかなかった。
これは調整役の存在を考慮しなかったために発生した問題であり、そしてそれ故に暴走を誘発することとなる。
「なら勝手にしろ!俺達も勝手にやるからな!」
「おい!勝手な行動をするなよ!指示を守れ!」
「やばいな、リンドバーグさんに知らせないと!」
ここでシダ・ファミリーの一団が第三桟橋にある倉庫を占拠。中に保管されていた『暁』の物資を強奪する。
「予想通りですね。予定どおり、ここは静観してください。私達が何もしないとなれば、慎重なリンドバーグの三者連合内での発言力を弱めることになります」
「御意、その様に図ります」
報告を受けたシャーリィは静観を指示。この行動に対して『暁』は一切のアクションを起こさないことを決める。
翌日も三者連合による襲撃が発生。第三桟橋付近にある別の倉庫が襲撃されたのである。
この時『暁』の警備兵四人が警備を行っていたが、三者連合の襲撃者達を見るや戦わずに逃走。
「逃げるのか臆病者ぉ!」
「ぎゃはははっ!」
この結果、その倉庫にある物資は強奪されることとなる。
「分け前だぁ?ふざけたこと言ってんじゃねぇよ、爺さん。昨日今日と身体を張ったのはうちの手下達だ。強奪したのは全部うちが貰う」
「戦果は山分けではなかったかね?」
「へっ!いつまでもビビって慎重なアンタの代わりに働いてやってるんだ。当然の報酬だろうが!」
二日続けての襲撃成功。更に警備が戦わずに逃げ出し、増援すら寄越さなかった事からシダは確かな手応えを感じていた。強奪した物資を独り占めし、気炎をあげる。
「むぅっ……」
対するリンドバーグは『暁』の動きに疑問を持ちながらも立て続けに戦果を挙げたシダ・ファミリーの面々を見て、自分達も戦果をと突き上げてくる部下達への対処に苦慮していた。
リンドバーグ・ファミリーとて本質はマフィア。目の前に儲けられる状況があるのにじっとしていられるような者達ではないのだ。
これまでは『暁』の躍進もありファミリーのボスであるリンドバーグの慎重論に従っていたが、強行して成功を納めたのが長年の宿敵となれば尚更だった。
「『暁』の所有する第四桟橋の労働者達の話によれば、あちらも随分と警備が少なくなっているそうです」
ここで荒波の歌声のヤンが最新の情報を伝える。
「それは本当かね?」
「複数人に確認した結果なので、間違いはないと思います。それに、運び込まれる物資の数も減っているのだとか」
「ほらな!奴等は『黄昏』に立て籠るつもりなんだ!あの小娘が死んだって噂も間違いじゃないかもな!」
「しかし……」
「では、明日更に襲撃をかけて物資を更に集めては?その物資を手土産に『海狼の牙』と交渉しては如何でしょう」
「ほう、『海狼の牙』とかね?」
「港湾エリアで利権を確保するなら、彼らを通さねばなりませんから。交渉は私が請け負います。もちろん明日の襲撃が罠だった場合は、別の策を考えましょう」
「なんだ、アガリをくれてやるのか!?」
「『海狼の牙』の機嫌を取っておけば、後々優位になる。明日の襲撃はうちの者達にも参加させよう」
「ちっ、取り分が減るぜ」
「まあまあ、大局を見ましょう。二日間で奪った物資を計算してみましたが、莫大な額です。いくら策略でも『暁』に損が多すぎますからね」
「罠である可能性は低いと?」
「あくまでも素人考えです。私達からすればこれまでどおり仕事を頂ければ良いので。『暁』では無理ですからね」
三者連合は更なる略奪を計画する。だがその動きは『暁』情報部に察知されていた。
「どうやら巣穴は十五番街にあるみたいね。『血塗られた戦旗』の関与を疑うべきかしら?」
「場所を提供している可能性がある、か。ヘンリー伍長は?リナちゃん」
「今も追跡中です。今朝十五番街へ入りました」
「口封じされるかもしれないわよ?」
「構わねぇ。わざわざ嵩張るような物資を残したんだ。こそこそと荷を運ぶ奴等をつければ済む話だからな」
「ではカウンターといきましょうか。ふふっ、初仕事に相応しい舞台ね」
マナミア、ラメル、リナが館にて怪しく笑う。三者連合は大きな撒き餌に釣られて罠にかかりつつあった。
「今回は終わるまで大人しくしてろよ、シャーリィ」
「分かりましたよ。大人しくしています」
そしてシャーリィとルイスは事が終わるまで身を隠すこととなった。