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MIRAN@新作公開!!
瀬名 紫陽花
【風の向き】
夜の神社。
静けさが、均等に広がっていた——はずだった。
その時。
九尾さんの尾が、ゆっくり揺れた。
ただそれだけなのに、
空気が一段、冷える。
「……?」
駿は、無意識に顔を上げた。
「……今……」
風が、変わった。
さっきまで、背中から押していた風が、
今は——横から、切り込んでくる。
「……九尾さん」
駿の声に、少し緊張が混じる。
「……風向き、違いませんか」
九尾さんは、潤を見る。
そして、否定しなかった。
『……よく、気づいたな』
尾が、もう一度揺れる。
それは合図のようだった。
『……報告が入った』
低く、重い声。
駿の胸が、嫌な音を立てる。
「……報告?」
『……あの子の状態だ』
——僕。
駿は、息を飲む。
「……悪い、んですか」
九尾さんは、一瞬だけ、目を伏せた。
『……悪化している』
駿の指先が、冷たくなる。
「……回復してるって……」
『回復はしている』
九尾さんは、はっきり言う。
『だが……
安定しているとは言えぬ』
風が、強く吹いた。
境内の木が、ざわりと音を立てる。
駿は、その風を感じていた。
——さっきまでとは、違う。
まるで、何かが“ずれている”風。
「……あいつ……」
駿は、門の上を見る。
空っぽの場所。
「……無茶、したんですよね」
九尾さんは、答えない。
それが、答えだった。
「……」
駿は、胸元のお守りを、ぎゅっと握る。
「あいつ……
いつも、軽い感じで……」
声が、少し震える。
「……でも、大事な所は……
全部、自分で引き受ける」
九尾さんは、静かに言った。
『……だからこそ、今——
世界の歪みが、風に出ている』
駿は、はっとする。
「……じゃあ、この違和感……」
『……あの子の“バグ”が、
こちら側にも滲み始めている』
駿は、唇を噛んだ。
「……僕に、何か出来る事は」
九尾さんは、潤をまっすぐ見る。
『……出来る』
駿の目が、わずかに見開かれる。
『……あの子は、今——
こちらの世界を“基準”にして、
自分を繋ぎ止めている』
「……基準……」
『お前の存在だ』
風が、また変わる。
今度は、ほんの一瞬だけ、元の向きに戻った。
駿は、確信する。
——今の風、
あいつがいた時の風だ。
「……聞こえてないかもしれない」
駿は、夜空に向かって、小さく言う。
「……でも」
胸に手を当てる。
「……ちゃんと、謝るから」
風が、少しだけ、やわらぐ。
九尾さんは、その変化を見逃さなかった。
『……届いているな』
駿は、門の上を見上げる。
「……待ってる」
声は震えていたけど、
迷いはなかった。
「……ちゃんと、戻ってきてください」
夜の神社。
風は、完全には落ち着かない。
それでも。
——繋がりは、切れていなかった。
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