テラーノベル
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「だ~め~で~す~~~~!」
目をまん丸にして固まっていたミアが、我に返ったように叫んだ。
ぎゅっと目をつむり、眉を八の字にして、胸の前で両腕を大きく交差させる。
「だいたい、冒険者が壊した装備を、ギルドのお金で買い直すなんて聞いたことありません!」
「無銘の依頼で、必要な戦いをして壊れた装備なら当然だろう」
「そんなこと、|黄金秤《リブラ》だってしてませんでした!」
「よそはよそ、うちはうちだな」
黄金秤にいた頃は、酷いものだった。
買い替え代を惜しむあまり、武器をかばって反応が遅れて、大怪我をした新人を見たこともあるしな。
装備を惜しんで、怪我をするなんていうのは本末転倒だ。
必要な装備が壊れたなら、その分の損失は無銘が補う。
見込んだ才を最大限活躍できる場所を作るのが、ここ無銘の役目だ。
「とにかく、私の剣をギルドのお金で買うなんて駄目です!」
「……分かった。なら、買うのはやめよう」
「本当ですか?」
ミアがほっと息をついた。
「ああ。市販品じゃ力不足だな。腕のいい鍛冶職人に、オーダーメイド品を依頼する──特注品だ」
「もっと駄目じゃないですか~~~!」
ミアは涙目で、ぶんぶんと首を横に振った。
「ミア様、諦めた方がよろしいですよ。ご主人様は、言い始めたら人の話を聞きませんので」
「おまえに言われたくないぞ」
「でも──」
「新しい剣なら、剣を壊さずにあの力を試せるかもしれません。ミア様も、試してみたいでしょう?」
ミアは両腕で×印を作ったまま、こくりと頷いた。
「話は決まりだな」
「──い、今のは違います!」
「鍛冶職人にはツテがある。さっそく依頼に行くぞ」
***
そうして訪れたのは、町の職人街でもっとも奥にある武器屋だった。
店の奥に鍛冶工房を構えているが、昼間から表の扉は閉ざされている。
構わず三度叩く。
しばらくして、内側から不機嫌そうな声が返ってきた。
「今日は新しい注文を取らん。帰れ」
相変わらず、客を寄せつける気のない店だな。
「そう言うな、ハルド。おまえが求めていた”理想の振り手”が、ようやく見つかったかもしれんぞ」
扉の向こうが静かになる。
やがて小窓が開き、白髪交じりの男が顔を出した。
「……その声は、シードか?」
「久しぶりだな、ハルド」
鍛冶職人ハルドは俺の顔を確かめると、すぐに後ろのミアへ目を向けた。
#元カレ
まぁ
25,630
アトハ
153
#聖女
にゃみ3
37
#ハッピーエンド
にゃみ3
30
「そいつか?」
「ああ。見れば分かる」
「おまえがそこまで言い切るとはな──分かった。入れ」
先ほどまでとは打って変わって、扉はすぐに開いた。
「あの……この人は?」
「ハルドだ。この町で一番腕がよくて、同時に一番客を選ぶ変態鍛冶職人だ」
「放っとけ。つまらん物を打つつもりはないってだけだ」
ミアは俺とハルドを交互に見たあと、どう受け取ればいいのか迷ったように、ぺこりと頭を下げた。
店内の壁には、完成した剣や槍が隙間なく並んでいる。
どれも飾り気はない。だが、同じ型の剣でも重心や柄の太さが少しずつ違い、使い手に合わせて選べるようになっていた。
万人に合う一本などない――そう言わんばかりの、ハルドの狂気じみたこだわりが壁一面から伝わってくる。
なかでも目を引くのは、刀身や柄へ魔法陣を組み込んだ魔導装備の一角だ。
鍛冶と魔道具。その両方をこれだけの水準で扱える職人となれば、ハルド以外に心当たりはない。
「|黄金秤《リブラ》を辞めたそうだな」
「もう知ってるのか」
「おまえが仕事を回していた職人には、とっくに話が広がってる」
ハルドはミアの前に立ち、無遠慮に片手を差し出した。
「嬢ちゃん、手を見せろ」
「は、はい」
ミアが両手を差し出す。
ハルドは剣だこや指の長さを確かめると、壁から木剣を一本取った。
「いつもどおり構えろ」
ミアが正眼に構える。
「そのまま、何度か振れ」
「はい!」
ミアは一歩踏み込み、木剣を振り下ろした。すぐに正眼へ戻り、角度を変えてもう一度。
どの斬撃も切っ先はぶれず、振り終わりでぴたりと止まる。
ハルドは正面からその姿を眺めたあと、横へ回り、手首、肘、肩の位置を順に見ていく。
「細身だが、前へ出る剣だな。腕で振り回さず、刃筋で斬る。重心は鍔より指一本前。柄は今より少し短い方がいい」
木剣を取り上げたハルドが、わずかに目を細めた。
「たしかに見事な腕だ。だが……おまえがわざわざ連れてきたっていうことは、これだけじゃないんだろう?」
「もちろんだ。ハルド、これを見ろ」
俺はミアが持っていた折れた剣を、ハルドに差し出した。
ハルドは怪訝そうに眉を寄せた。
しかし内側から黒く焼けた断面に気づくと、折れた剣を俺の手から奪い取り、食い入るように覗き込んだ。
「……外から焼かれた跡じゃないな。これを嬢ちゃんが?」
「ああ。炎甲蜥蜴を一刀両断する見事な一撃だったぞ」
「そりゃ、この剣じゃ耐えられないだろうな。てことは嬢ちゃんは、炎属性に適性がある魔剣士ってことか?」
「いや──ミアには、自分の魔力がない」
焼けた断面をなぞっていたハルドの指が止まった。
「なっ!? そりゃ本当か?」
「あの──はい」
ハルドの視線を受け、ミアが居心地悪そうに身じろぎした。
「なるほどな──それで”理想の振り手”か」
ハルドは納得したように頷いた。
「属性石から取り込んだ魔力を、使い手を通して出力するための魔剣を作ってほしい」
「……属性は?」
「いずれは全属性を試す予定だ。そうだな……まずは火と風から試すのが妥当か」
火はすでに成功例があるし、風なら俺も少しなら扱える。
最初に試す二属性としては、火と風が最適だろう。
「流す魔力はどうする?」
「ついでに属性石も見繕ってほしい」
俺の言葉に、ハルドは片眉を吊り上げた。
「──随分と人使いが荒いことで」
「だが、できるだろう?」
「当たり前だ。俺を誰だと思っている」
そう言ってハルドは鼻を鳴らした。
「シードさん? 今、魔石まで買うって言っていたような……?」
「ああ。武器を振るうために必要だからな」
「ひえっ──」
ミアがまた泣きそうな顔をしているので、俺はそれ以上の説明を飲み込んだ。
値段は伏せておこう。
ハルドは紙の上へ、二つの属性石から握りへ向かう線を一本ずつ引いた。
魔力が通る方向を定めるため、武器の内部へ刻む道――流路だ。
続いて、握りから刀身の中心へ戻る一本の線を描く。
「火と風は、別々の流路で嬢ちゃんの手へ送る。嬢ちゃんが取り込んで返した魔力だけを、刀身の中で一つに束ねる」
「属性石は二つ仕込むのか?」
「ああ、二属性同時に流せる」
ハルドは柄へ、属性石を追加できる複数の差し込み口を描いた。
そのうち二つに、火と風の印を書き込む。
「普通なら、自分の魔力と石から流れ込む魔力がぶつかる。ましてや二属性だ。身体がまず耐えられん」
「だが、ミアにはぶつかる魔力がない」
「ああ。だから自由に魔力を取り込める。まさしく──逸材だな」
ハルドが紙の上へ、さらに何本もの流路を書き足していく。
火と風の二本だけではない。柄の根元から枝分かれし、やがて刀身の中心で一つに重なる設計だ。
「今回は二属性で作る。こいつが実用に耐え、嬢ちゃんが扱い切れると分かれば、次は属性を増やす」
「最後は全属性か」
「そうだ。使い手の属性に縛られず、あらゆる魔力を一振りへ集める。俺が打ちたかったのは、そういう剣だ」
最初は注文を聞いていたはずのハルドが、いつの間にか俺より先に話を進めている。
この依頼に乗り気どころか、止めなければ今すぐ炉へ火を入れかねない。
「私に、そんな剣が使えるんでしょうか……」
ミアは設計図に伸びた無数の線を見つめていた。
「使えるかどうかを、これから少しずつ試すんだ」
俺は折れた剣の黒い断面を指した。
「少なくとも、おまえは何の仕掛けもない剣で、炎の魔力を見事に利用してみせた。なら、その力を最大限扱うための剣を用意する価値はある」
「来い。使う魔石について相談したい」
俺たちがそんなことを話していると、ハルドがそう声をかけてきた。
そのまま店の奥にある戸棚を開けた。
いくつもの小箱から二つを選び、作業台へ置く。
一つは、炎を閉じ込めたような赤い石。
もう一つは、淡い緑の光が絶えず内部を巡っている石だ。
どちらにも濁りはなく、石そのものがゆっくりと周囲の魔力を吸い込んでいた。
「火と風の最上級属性石だ。身体へ直接流すなら、濁った石は使えんからな」
「それで頼む」
そうなると、少し予算を超えてしまうかもしれないな。
「二十万は手元にある。いくら足りない?」
「要らん。その代わり、この剣は絶対に俺の手で完成までやらせろ」
「はなからおまえ以外に頼むつもりはない。ハルド、物事には適正価格というものがあると何度も教えたはずだぞ?」
ハルドは根っからの職人タイプだ。
自分の興味が向けば、採算を度外視してのめり込んでしまいかねない。
俺の依頼で赤字なんて、許すわけにはいかないからな。
「シード、昔おまえが客を回してくれなければ、この店はとっくに潰れてた。そのうえ、ようやく理想の振り手まで連れてきやがった──少しは恩返しさせろってんだ」
「そこまで言うなら──」
俺は作業机の上に、硬貨の入った袋を置く。
きっかり十万ドゥレ──着手金として、不足はないだろう。
「ハルド、完成したその時には、きちんと請求しろ。それに見合った報酬を出すのが無銘の方針だ」
「おまえは、本当に変わらないな──」
ハルドは呆れたようにそう呟くと、設計図へ視線を戻した。
「……三日後に来い」
「随分と早いな。できるのか?」
「誰に聞いてる」
ハルドは折れた剣と二つの属性石を、自分の側へ引き寄せた。
その目はもう俺たちではなく、まだ形のない理想の一振りだけを見ていた。
俺はその隣で、不安そうに自分の手を見つめるミアへ目を向けた。
三日後、その手に渡るのは、この世界でただ一人、ミアにしか振るえない剣だ。
コメント
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おお、第14話めっちゃ良かったわ!シードの「装備惜しんで怪我するのは本末転倒」ってスタンス、無銘のポリシーがクールすぎる。ミアの「だ~め~で~す~」の拒否から特注魔剣開発に流れていく展開、ワクワクした🔥 ハルドの職人バカ全開な感じも熱いし、ミアだけが振れる一振りができる日が楽しみすぎるわ〜