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エスカレートするクラスの狂気は止まらなかった。音楽の授業で「タコ」のイラストが出れば「出た、触手プレイだ!」と大騒ぎし、「科学実験室(ラボ)」という単語には「先生今、ラブホって言った!?」とニヤニヤと問い詰める。給食の「チーズスフレ」の蓋に書かれた『ス』の文字が斜めから見たら『セ』に見えるという理由だけで、「セ◯レじゃんこれ!!」とクラス全体で大合唱を始める始末だった。
そんなある日の放課後、人目のつかない裏校舎の自転車置き場に、弥が息を切らせて駆け込んできた。その顔は血の気が完全に引き、ガタガタと震えていた。
「おい、聞いたか……? 夏太のやつ、明日の『研究授業』で、とんでもないことを計画してるぞ」
研究授業。他クラスの担任たちや外部の視察、教頭先生などが後ろにズラリと並ぶ、ある意味で授業参観よりもシリアスな場だ。夏太はそこで『クラス全員で同時に下ネタを叫ぶ、一斉テロ』をやろうと裏で計画を進めていた。
熱海先生が質問を投げかけたら、全員で笑顔で挙手をする。そして指名された者が口を開くのと同時に、クラス全員が立ち上がり、声を揃えて一番不快で卑猥な言葉を大音量で叫ぶというものだった。「親や他の先生の前でやれば、熱海は確実にクビになるし、学校中の伝説になれる」と、夏太は狂ったように笑っていたという。
「……なるほどな。完全に調子に乗りすぎたわけだ」
重苦しい沈黙を破ったのは蹴介だった。その瞳は冷徹なほどに冴え渡っていた。
「あいつらは『全員が味方で、全員が笑顔で叫んでくれる』と信じきっている。その絶対的な信頼を、本番のステージで根元からひっくり返してやるんだ。夏太が一番恐れているのは、自分の下ネタが『滑る』こと、そして『自分がただの恥ずかしい道化だと突きつけられる』ことだ。作戦を立てるぞ、翔、弥」
そして迎えた研究授業、5時間目。教室の後ろには、十数人の大人たちが重苦しい雰囲気で並んでいた。授業が始まって30分、ついにその瞬間が訪れた。
熱海先生が振り返る。「よし、この問題の最後の答えが分かる人はいるか?」
それを合図に夏太が手を挙げ、クラスのほぼ全員が一斉に「はい!」と笑顔で手を挙げた。熱海先生は嬉しそうに微笑む。「じゃあ……夏太、答えてみろ!」
指名された夏太がゆっくりと立ち上がる。クラス全員が用意していた下ネタを一斉に叫ぼうとした、そのダムが決壊する寸前の、おぞましい一瞬――。
「――待て!!」
教室の空気を引き裂くような、鋭く、圧倒的な声が響き渡った。一番後ろの席から、大神蹴介が立ち上がったのだ。
一斉に叫ぼうとしていたクラス全員の口が、あまりの衝撃にピタリと止まる。
「熱海先生、その問題の答えなら、吉村くんに聞く必要はありません。彼らが今から言おうとしているのは、算数の答えではなく、後ろにいる先生方を侮辱するための、吐き気がするほど下品で、くだらない最低な下ネタです」
「ふざけんじゃねぇぞ、大神!!」夏太が顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。「何空気乱してんだよ!おいみんな、構うな!せーので言え!!」
夏太が必死にクラスを煽るが、一度狂気の鎖を断ち切られた教室の空気は、もう元には戻らなかった。
「……もう、たくさんだ」
次に立ち上がったのは如月翔だった。「夏太、もうやめろよ!誰も本当は笑ってない!みんなお前にハブられるのが怖くて、必死に笑ったフリをしてただけだ!賢太の顔を見てみろよ!翅の目を見てみろよ!あいつらお前のせいで、心がボロボロになって壊れかけてるんだぞ!!」
その魂の叫びに、真っ先に反応したのは弥だった。「……そうだ。僕だって、本当は毎日気持ち悪くて、ずっと泣きたかった……!」
弥が涙を流しながら立ち上がると、それに引きずられるように賢太が机に顔を伏せてボロボロと泣き始め、翅も夏太から静かに視線を逸らした。周りの生徒たちも、ハッと我に返ったように挙げていた手を力なく下ろしていった。
「てめぇら……!裏切りやがって……!」
夏太がなおも喚き散らそうとしたその時、後ろから教頭先生が歩み出てきた。
「夏太くん、吉村くん、そして熱海先生。授業はここまでです。全員、放課後、職員室へ来なさい」
教頭先生の冷徹な一言で、計画は実行される前に完全に自爆した。
教頭先生から凄まじい大説教を喰らった夏太と高尾の怨念は、すべて「最初に裏切った弥」へと向けられた。彼らは、翔と蹴介が委員会活動で教室を空けたわずか15分の隙を狙い、クラスの麻痺した空気を味方につけて、最悪の精神的リンチを開始した。
「おい、裏切り者の弥。お前、さっき『本当は気持ち悪かった』とか抜かしてたよな? 意味も分かってないくせに綺麗事言ってんじゃねぇよ」
放課後、教室の隅に完全に退路を断たれる形で囲まれた弥の前に、夏太と高尾が立ちはだかった。
「お前さ、いつも使ってる言葉の意味、本当は分かってねぇだろ。今から一個ずつ丁寧に教えてやるよ。まずは『お盛ん』だ。これはな、大人がやり合ってる状態のことなんだよ。お前の親もな、お前が生まれたって言うことは、『お盛ん』にやってたんだよ!」
夏太が弥の耳元で、早口で不快な言葉をまくしたてる。
「やめて……!聞きたくない……!」
弥は耳を塞いで首を振ったが、高尾がその腕を強引に掴んで引き剥がした。
「次は『触手プレイ』だ。〇〇して〇〇する変態の遊びだよ!ほら、意味分かったか!?声に出して言ってみろよ!」
周りを取り囲むクラスメイトたちも、夏太の怒りに怯え、そして自分たちの過ちを認めないために、狂ったように笑顔で言葉を重ねて加担し始めた。
「そうだぞ、お前も『セ◯レ』の意味教えてやるよ!学校の友達なのに、勉強もしないでやるためのおもちゃって意味だ!お前の母ちゃんも誰かのおもちゃなんだよ!」
「ほら、車のナンバーの『4545』は07◯1の音だ!お前も毎日家で一人やってるんだろ!?」
逃げ場のない言葉の洪水。無関係の家族までをも巻き込んだ、不快極まりない下ネタの意味の強制的な教え込み。意味を理解させられるたびに、弥の頭の中の綺麗な記憶が、ドロドロとした汚物で塗りつぶされていく。拒絶したらもっと酷い言葉が降ってくる。理解して、笑わなきゃ、頭が壊れる――。
パチン、と、弥の心の中で何かが弾け飛んだ。涙で濡れていた弥の顔から一切の感情が消え失せ、瞳から完全に光が消え失せた。
「……あはは。本当だ。僕の親も、みんな、いやらしいことをお盛んにやってるんだね。セ◯レなんだね、ウケる」
「ヒャハハ!戻ってきたじゃん、弥!」
夏太が狂喜乱舞して弥の肩を叩く。その標的は、すぐに隣でガタガタと震えていた賢太へと移った。「次は賢太、お前だ。お前、さっき授業中に机に伏せて泣いてたの、本当は泣いてたんじゃなくて、さっき教えた『4545』を机に押し付けてやってたんだろ?ほら、こうやって手を動かしてだな……!」
「違う!僕は本当に悲しくて……!」
「嘘つくなよ!ほら、全員で見ようぜ、賢太の再現!」
吉村たちが賢太のズボンを無理やり引っ張り、クラスの女子たちも「早く動かしてよ!」と、麻痺した笑顔で拍手を送り始めた。
「やめて……やめてよぅ……!」
尊厳を完全にズタズタにされ、下劣な意味を脳に直接叩き込まれた賢太の目の光は、今度こそ完全に消灯した。「あはは……そうだよ。僕、してたんだ……」
最後は、元から人形のようだった翅だった。夏太は翅の口に、給食の残りの干からびたソーセージを強引にへし折って突っ込んだ。「ほら、翅!お前に『本物の形』を教えてやるよ!これはあの棒だ!そしてあそこに無理やり出し入れするんだよ!味わえよ!」
翅は抵抗することすら忘れ、感情の消えた笑顔の仮面のまま、それをただ食べ、ゴクリと飲み込んだ。「……ん。変な味がして、おいしい」
わずか15分。翔と蹴介が教室に戻ってきたとき、そこにあったのは、昨日救い出したはずの3人が、今までで一番「深い地獄の底」に堕ち、クラス全員と一緒になって、死んだ目で不意味に大爆死している凄惨な光景だった。
夏太が、戻ってきた翔と蹴介を振り返り、勝ち誇ったような、これ以上ない不快な笑みを浮かべた。
「おかえり、翔、大神。ほら見ろよ、誰も裏切ってなんてないぜ? みんな、言葉の意味をしっかり勉強した、お盛んな4組の仲間だろ?」
弥も、賢太も、翅も、完全に光を失った目で、翔たちを見て「あはは」と機械的に笑っている。
翔は、その場にへたり込みそうになるほどの絶望と、激しい怒りで全身を震わせました。隣に立つ大神蹴介の顔から完全に表情が消え、底知れぬ静かな怒りのオーラが教室中を圧迫し始めた。本当の地獄は、ここからだった。
コメント
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うわ……これ、読んでて本当に胸が痛くなったよ……。特に弥がどんどん光を失って「あはは」って笑い出すところ、心臓がぎゅっと締め付けられた。せっかく蹴介たちが救い出したのに、またあっという間に深い闇に突き落とされる展開が辛すぎる。でも、そこから蹴介と翔がどう動くのか、続きが気になって仕方ない……。作者さん、この重さを丁寧に描けるの、本当にすごいよ。続き、静かに待ってるね🌙