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話を聞くためにミーニャさんを召喚し、結果として用意した魚のすべてが消費されてしまった翌日の朝9時。
俺はアクラの西門へと到着した。
冒険者証を提示して門を通りつつ、俺は魔法収納内にある案内図を確認する。
案内図は2種類。
アクラの冒険者ギルドが配っているという1枚ものと、アクラの商業ギルド作成という、そこそこ詳細な5枚綴りのもの。
どちらも昨晩、ミーニャさんから貰ったものだ。
『アクラはドーソンと比べると段違いに大きな街なのニャ。店の数も種類も、ドーソンと比べると段違いニャ。ただ、冒険者ギルド発行の案内図には、一般的な冒険者に必要な店しか載っていないのニャ。ニャので、もしドーソンにないような店に行きたいのニャら、商業ギルド発行の案内図の方が役に立つのニャ。こちらは、アクラの商業ギルドに加盟している店を全部載せているニャ』
なお商業ギルド発行の地図を持っている理由も聞いた。
『商業ギルドの研修期間中、アクラの商業ギルドでも研修させられたのニャ。実際は、アクラの方が規模が大きい分忙しいので、仕事が多い3月終わりの週の応援として、こき使われたのニャ』
以上である。
確かにミーニャさん、事務屋としても有能らしい。
そして3月末は税金だの決算だので、どこの組織も忙しくなる。
だから働かせる方の気持ちは、わからないでもない。
働かされる方は、たまったものじゃないだろうけれど。
ああ俺もそんな時代があったな、と思い出す。
そして、そんな現場で使える人材だと判断されると、その後も激しくヤバい現場に回され続け、こき使われることになるのだ。
思えば前世は、試験採用期間中の研修からもうブラックだったなと思い出す。
あの時に逃げ出していれば、俺の人生も違うものになっていただろうか。
というのは、もう今は関係ないから置いておいて。
商業ギルドの方の地図には、釣り道具屋が載っていた。
説明書きによると漁師用の道具屋を兼ねているようだけれど、正直なところ、もう興味しかない。
ぜひ立ち寄って、商品ラインナップを吟味したいところだ。
そして本は、本屋ではなく商業ギルド付属図書館で扱っているらしい。
実用書だけでなく、ある程度の娯楽本や情報紙もあると書いてあった。
これもまた、絶対に寄るべき場所だろう。
しかし、当初の目的はアクラの漁業組合。
マーシュさんに話を聞くことが優先だ。
漁業組合があるのは街の東側。
河口部に港があり、その端にある建物だ。
外から魔法で確認したところ、中にいるのは1人だけ。
漁師は午前中、基本的に漁に出ているらしいので、いるとすれば事務担当だけだろう。
ただ、いるのがドワーフかどうかというのは、偵察魔法で姿形を視認しなければわからない。
エルフは魔力がわりと特殊だから判別しやすいのだけれど、ドワーフの魔力は人間とあまり変わらないからだ。
そして建物内部を魔法で視認するというのは、場合によっては失礼にあたる。
少なくとも前世の常識ではそうだ。
これ以上外で調べるようなことはせず、直接訪問した方がいいだろう。
ということで、俺は漁業組合の扉をノックする。
「開いておるぞ」
これは、入っていいという意味だろう。
ということで、扉を開けて中へ。
中を一目見て、マーシュさんがこの人だと理解した。
俺と同じくらいの身長に、2倍以上の横幅。体重は、多分4倍以上あるだろう、がっちりした体型。
そして、白くて長い髪と髭。
誰がどう見てもドワーフだ。
「失礼します」
一礼したのち、前世ではじめての場所を訪問した時の要領で、口上を述べる。
「お忙しいところ失礼いたします。ドーソンのC級冒険者で、エイダンと申します。本日はこちらの事務長のマーシュさんに、お話を伺いたく参りました。こちらが、ドーソン漁業組合事務長のバラモさんからの紹介状になります」
「そんなかたっ苦しい挨拶はいいから、まあこっちへ来て座れや」
「はい、失礼します」
かたっ苦しいと言われても、前世から身についているので仕方ない。
ドーソンにいた頃は、成り行きでこういう場面はなかったから、なあなあになっているけれど。
ということで、お約束動作どおりに動きつつ、バラモさんからの紹介状と箱入りの酒甕を渡し、示された椅子に座る。
マーシュさんは木箱を一目見て、中身を察したようだ。
「なるほど、確かにこんな物を寄越すのはバラモだな。奴は元気か」
「ええ。漁師は息子に譲って、漁業組合の事務長をやっていますけれど、元気です。私も、いつもお世話になっています」
「奴は人間だからな。そろそろ漁も辛い年頃だろう。さて、ちょっと紹介状を読むから待ってくれ」
ペーパーナイフというよりは、サバイバルナイフ。それも業物っぽい刃物で、さっと封筒の口を切り、マーシュさんは紹介状に目を走らせる。
「なるほど、インガンダ・ルマか。だがあれは沖の、100m以上の深さにいる魚だ。釣れるのは、アクラからだと北北西に200km以上行った、海底が深い谷のようになった場所になる。そのくらいの沖に出ることができる船でなければ、釣るのは無理だ」