TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

 なるほど。

 それだけの沖まで航行するには、人力で漕ぐ船では無理だ。

 100km以上となると、風力でも少々厳しいだろう。

 魔法で動く高速機関を積んだ船でないと難しそうだ。


 しかしマシューさんは、魔力機関を積んだ船を持っていた筈だ。

 その船で、3年前までインガンダ・ルマを揚げていたとも聞いているし。

 だから俺は、こうたずねる。


「マシューさんは、もう御自身で沖に出るつもりはないのでしょうか」


 マシューさんは、首を横に振る。


「魔力機関が壊れた。元々は儂の師匠の船で、魔力機関の構造も師匠しかわからん。だからもう、動かすのは無理だろう。それでも思い出があるから、陸に引っ張り上げて取ってはあるがな」


 魔力機関の故障か。

 それなら何とかなるかもしれない。


 これでも俺は元神殿技術者であり、神力を使用したあらゆる装置を保守・修理してきた経験がある。

 そして魔力機関と神力機関は、ほぼ同じ物だ。

 そもそも魔力と神力は性質的にほぼ同じで、祈祷で生じるか、個人の魔力を起点として周囲の魔素を動かして生じるかの違いでしかない。


 もちろん、確実に出来るとは言えない。

 俺の専門は、向こうの世界における神力を使用した装置で、この世界における魔力を使用した装置ではない。

 それでも、出来るかどうか確かめてみた方がいいだろう。

 というか元技術者として、確認したい。


「すみません。その船を見せて貰ってもいいでしょうか」


「ああ、かまわんよ。この事務所の裏に置いてある」


 あっさり。

 なら遠慮なく、見させてもらおう。


「ありがとうございます。それでは見させていただきます」


 一礼して、そして事務所を出て裏側へ。

 この世界の漁船としては明らかに大きい船が、鉄製のしっかりした車輪付き架台に載せて置かれていた。

 全長は15mくらい、幅は4mちょっとというところだろうか。

 確かにこれなら、多少は遠くに行っても大丈夫そうだ。


 船の本体は鉄製だが、外側に錆は見られない。

 定期的に錆止めや塗装などのメンテナンスを続けているということだろう。

 使用しなくなってからも、ずっと。


 それでは、魔力機関の確認だ。

 透視魔法で船全体、それも水面下になる部分を中心に確認する。


 どうやら推進力の元となりそうなのは、前後方向に船底を走っている2本のパイプのようだ。

 ここで海水を吸い込んだり、吐き出したりして、船を動かす仕組みだろう。


 そして、船の中心よりやや後方、底部にあるパイプ2本を取り囲むように、魔力導線らしきものが走っている。

 なお導線は、俺に馴染みのある木炭魔法加工物質カーボン細密ナノチューブではなく、ミスリル製だ。

 それでも基本は変わらない。


 魔力導線と思われるうちメインと思われる線は、船室前方にある操作卓から、底部まで伸びている。

 この線に遠隔で魔力を流して、伝達具合を確認。

 魔力は操作卓から線を伝って流れた後、パイプを囲む辺りで急に広がって失算した。

 ここが怪しいと見当をつけて、俺は透視魔法の倍率を上げ、詳細を確認する。


 なるほど。本来はコイル状になっているべき部分から、魔力が別の導線に漏れている。

 神力機器にある神力絶縁不良と同じだ。

 神力導線は通常、導線以外に神力が流れないように何らかの樹脂で固めておくのだけれど、その樹脂が老化してボロボロになっている。

 これは神力ではなく魔力だけれども、おそらくは同じだ。


 この状態なら、他の場所でも絶縁不良が起こっているだろう。

 これでは魔力機関が動かなくなっても、仕方ない。


 そういえば前世でも、費用削減と称してメンテナンスをケチった結果、とんでもなく高価で貴重な神力機器が、いきなり使用不能になったことがあった。

 マニュアルどおりに定期メンテナンスを続けていれば、問題はなかった筈なのに。


 あの時は結局、修復不能と判断したんだよな。

 使用している魔力導線が複雑すぎて、なおかつ絶縁不良で焼き切れたり、癒着していたりという状態。

 ひとつひとつ修復なんてしたら、何年あっても足りない状態だったから。


 ということを、経過措置的に現場責任者であるデブに報告したところ、炎のように怒鳴られた。

 しかしその後、こちらが正規のルートで上層部に報告を入れた結果、あの現場責任者は管理職から降格し、辺境左遷となったんだった。

 部下すらいない環境らしいけれど、奴はその後どうなったのだろうか。


 さて、幸いなことに、この船の魔力機関はそこまで複雑ではない。

 ざっと確認した限りでは、絶縁樹脂さえあれば修理可能だと感じる。


 ただ、この世界では絶縁樹脂にどんな素材を使うのか、俺は知らない。

 この船の魔力機関で使用していた素材は老化しすぎて、元が何なのか判別不能だ。

 前世ではカウチュークという名の南方の樹木から取れる樹液を、凝固・乾燥させて樹脂にして使用していた。

 しかし、この世界でもカウチュークの樹脂を使用しているのかは不明だ。


 ただ神力機器を使用している部署では、カウチュークの樹脂はごく一般的な修理素材だった。

 だからこの世界でも似たようなものが、神力機器や魔力機関用として一般的に流通している可能性は高い。


 さらに言うと、この魔力機関の修理素材として常備していた可能性すらある。

 というか樹脂類は経年劣化しやすいので、定期的に剥離して塗り替えるのが、神力機器の基本だ。

 魔力機関だって、きっとそうだろう。


 だから絶縁素材については、まずマーシュさんに聞くのが正しいだろう。

 ただ聞く前に、絶縁以外で修理すべき部分がないかを確認しておこう。

 魔力機関だけではなく、他の部分についても。

今生はのんびり釣りをしたい ~元技術者で今は冒険者の、微妙にままならない日々~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

13

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚