テラーノベル
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客間に戻った恒彦と京子は、皆の視線を浴びた。
「話は弾んだようだね」
何かを察したように、にこやかに岩崎男爵が二人に語りかける。
「京子ちゃん。シロが、邪魔しなかった?」
京子からシロを受け取った芳子が言う。
「芳子、シロは庭で飼いなさい。犬小屋を用意すればいいだろう?」
「でも、まだ子犬なのに一匹で。かわいそうよ」
夫の男爵の言葉に芳子は言い返す。
そんな二人のやりとりを恒彦がくすりと笑った。
「あらやだ!私ったら」
芳子が慌てた。急いで女中にシロを引き渡し、再び見合いの場を取り持つ。
「仲がよろしいんですね。岩崎様は……うらやましいです」
恒彦が、真顔で言う。
「あら!仲がいいのは、京介さんのところよ!常に、月子、月子なんですもの!恒彦さんと京子ちゃんも見習うといいわよ!」
また芳子が弾けている。
「義姉上っ!」
京介が、たまらんとばかりに叫ぶ。
「やだぁ、もう、京介さん、声が大きいんだから!でも、本当のことでしょ?!月子さんに頼ってばかりで、仲悪いって言うの?!」
「いや、頼ってばかりではなく。仲も悪くありませんし……。むしろ仲は良いですよ!」
ぷいっと顔を背けながら、京介は、やけになって言うが、月子は、隣でただ俯き小さくなるだけだった。
「いやあ、岩崎男爵家は、朗らかで。京子さんもさぞかしお優しいお嬢様なのでしょうなぁ」
白井男爵が、当てられたとばかりに、笑いながら言った。
「ええ、父上、京子さんは、とてもお優しい方ですよ」
恒彦が続く。
たちまち、京介の眉が釣り上がった。
「あのなあ!君に娘の何がわかると言うのだね!」
「京介、子煩悩はわかるが、場所をわきまえなさい」
叫ぶ京介へ、岩崎男爵が注意するが、それが、余計場に笑いを誘った。
「いやあ、このようなお宅のお嬢様なら、何も心配はいらないか」
ワハハハと白井男爵は笑いながらご機嫌になっている。側では恒彦も頷いていた。ちらりと京子を見ながら……。
「まあ、なんだかうまくいきそうですわね!」
芳子が嬉しげに言う。隣で男爵も大きく頷き、視線を京介へ移した。
「京介、さすがに今返事をとは言わないが、前向きに考えても良い話ではないか?」
「あ、兄上……」
渋る京介などお構い無しで、白井男爵も何かを期待しているように見えた。
身を乗り出す勢いで、岩崎男爵夫妻へ、よろしく頼むと言い寄っている。
「そうだわ!次は、デートよね!二人でパーラーに行ってソーダを飲むってどうかしら?!」
芳子が突然言い出した。
「おお!恒彦!それがいい!」
白井男爵も、乗る気になっている。
「恒彦さん。京子様とお出かけしてみたら?」
白井男爵夫人までも、話を進めようとしていた。
「……父上も母上も。そう焦らないでください。京子さんが困っていますよ」
恒彦一人、冷静だった。
「でも、よろしければ、京子さんいかがですか?次の日曜日ならまだ空いてます」
「おお!恒彦それがいい!今のうちに!暫くすると渡航の準備にと追われるだろうしな」
どうでしょうかと白井男爵の押しに、京介は言い返せない。
ここで、反対したら男爵家の面子など、今後の兼ね合いも出てきそうだったからだ。
「私は……。京子次第です」
京介は、相変わらず渋った。
「京子さん。どうですか?街を散歩してみませんか?ああ、行きたいところがあれば、そちらへ」
しかし、恒彦まで押してくる。
「話は決まったな京介」
岩崎男爵が、有無を言わせないと、とどめを刺した。
この場の流れに逆らえるわけがなく、京介は、黙って認めるしかなかった。
京子も、どこかそわそわしているが、拒否する素振りも見せることなく、申し出を受け入れているようだった。
そして、約束の日──。
「京子ちゃん、気をつけてね」
月子がにこやかに見送っているが、京子は不機嫌そのものだった。
「……なんでお父様とお兄様まで?」
身支度を整えた京介と京太郎が、仁王立っている。
「行くぞ、京子」
「京子、ついてこい」
京介、京太郎親子は、当然という顔をして玄関から表へ出た。
「お母様……」
「まだ、お見合いですからね。お父様も筋を通すって。私は身重で動けないから、かわりに京太郎を連れて行くって。まあ、皆一緒なら京子ちゃんも心細くないでしょ?」
母月子は呑気に言うが京子にとっては、惑うことばかりだった。
見合いの延長ではあるが、デートのはずだ。恒彦は一人で来るだろうし、こちらは、付き添いが二人もいるというのはいかがなものだろう。
「……何かおかしくないですか?」
「京子!何をしている!」
「あっ、あれ、迎えの人力車じゃないか?」
京介と京太郎が騒いでいる。
さあ、と月子が京子の背を押した。
「まあ、おかしなことになっちゃってるけど、白井様ならわかってくださるわよ」
それがわからないようなら、縁はなかったのだと月子まで京子を諭してくる。
「わかりました。行ってまいります……」
京子は口重に返事をした。確かに恒彦と二人きりは緊張する。しかし、京介と京太郎が同席するのは、やはり何か違う。
とはいえ、
「岩崎様。お見送りまで……申し訳ございません」
「いや、白井君。なにかと不自由だろうから、付き添うまで……」
「あっ、はじめまして。京子の兄、京太郎です」
「あっ、これはこれは!」
などと、話はまとまりかけている。
「京子!お待たせしてはいかん。早く来なさい」
京介が急かす。
その背後では、恒彦が肩を揺らしながら笑いを堪えていた。
そして──。
「皆さん、コーヒーですね?」
注文を店主の園子マダムが取るが、
どこかいつもより浮ついている。
一行は、知った店のほうが気兼ねないと、京介の提案で、神田すずらん通りにある行きつけのカフェ、フルールにいた。
「いやあ、遅くなっちまった」
「岩崎たちはもう来てるのか?!」
店のドアが勢いよく開き、なぜか二代目と中村が乱入してきた。
「京子ちゃんの見合い相手が来てるって?!」
「二代目!しっかり、見届けないとな!」
二人は、ヘラヘラ笑いながらカウンター席に陣取った。
「あらまっ、そうゆうことですか!」
店主である園子マダムが、カップを揃えながら呟いた。
そして、恒彦は、注目を浴びながらも、また、肩を揺らして笑いを堪えている。
「コーヒーでよかったな?京子?」
京介が、むすりとしながら言った。
京子は、俯き、上目遣いに向かいに座る恒彦を見た。きっと、機嫌を損ねているだろうと思ってのことだった。
「……へえ、岩崎様御用達のカフェですか。洒落てますね」
ところが、恒彦は、ご機嫌で店をきょろきょろ眺めている。
「あれ、蓄音機がありますね」
目ざとく見つけた恒彦に、
「園子マダム、京さんのレコードかけてくれよ」
二代目が、調子に乗って先走る。
「はいはい。お咲ちゃんのレコードもかけましょうかね」
園子マダムは、コーヒーを淹れながら笑っている。
「……お咲ちゃんって、あの、花園咲子ですか?彼女レコード出してたんだ!」
恒彦が驚く。
「白川君、花園咲子を知っているのかね?」
「はい、岩崎様。彼女有名な歌姫ですからね。そうだ。日曜日だから公演があるんじゃないですか?」
「公演に行かなくても京子ちゃんと一緒になったら、毎日歌声が聞けるさ」
二代目がすかさず口を挟む。
「と、言いますと?」
恒彦が不思議そうにしている。
「……あの、花園咲子は、うちの女中でもあるんです」
京子が、見かねて恒彦へ事情を話した。
天下の歌姫は、幼い時に京介の所に女中としてやって来た。そして、音楽家の京介に歌の才能を見出されたのだと。今では、歌姫として成功し、公演のないときは、岩崎家で住み込み女中をやっているのだと……。
「驚いたな!」
恒彦は目を見張っている。
「まっ、うちは色々あるんですよ」
京太郎が得意げに言った。
「なんだか、岩崎家は楽しそうですね!これからが楽しみだ!」
恒彦の言葉に京介の眉が吊り上がる。
隣に座る京子は、気が気ではなかった。
#大人の恋
鷹槻れん

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コメント
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わあっ第6話読み終えたよ〜!!🌸✨ 恒彦さん、すごくスマートで優しいね…!京子ちゃんのことちゃんと気遣って「困ってるよ」って言えるの、めっちゃ好印象😭💕 でもデートなのに京介パパと京太郎兄が付き添いで来ちゃうの、笑ったww 家族の賑やかさが伝わってくるシーンばかりでほっこりしたよ! そして二代目&中村の乱入!しかも恒彦さん笑い堪えてるのずるい!可愛い!! 最後の「気が気ではなかった」の京子ちゃんの気持ち、すごくわかる〜〜〜。次回が楽しみすぎるよ⋆♡