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午後1時。夜会の本番、ファーストダンスの時間がやってきた。
広大なダンスフロアの中心には、国賓たちの前で踊らなければならない主役二人が立っていた。
外見は、凛々しき王太子ギルバートと、美しき公爵令嬢エレノア。
だが、その中身は、本物のマリア(王太子側)と、王太子ギルバート(エレノア側)。
そして、その周囲を、悔しそうに見つめるマリアの肉体(中身亜香里)と、壁際でモップを持った用務員のまこと。
「殿下、私、ステップなんて踏めませんぅ……」とエレノアの身体でしくしく泣くギルバート(中身マリア)。
「気にするなマリア、私がリードする。ドレスの裾を踏まないように……くっ、このドレス、ターンするたびに遠心力で骨盤が持っていかれるな!」と、完璧な男の気概でドレスを捌くエレノア(中身ギルバート)。
客観的に見れば、「王太子が完全に腰が引けて内股になっており、公爵令嬢が物凄い怪力とイケメンなリードで王太子をぶん回している」という、前代未聞のダンスだった。
国賓たちは「おお……あれが我が国の最先端のダンススタイル……令嬢が主導権を握る『リバース・ワルツ』か……!」と感銘を受けていたが、フロアの端にいた亜香里(見た目マリア)はまことに小声で囁いた。
「ねえまこと、あれ完全に地獄絵図なんだけど。私の推しキャラ(ギルバート)が内股で泣いてて、私の本来のガワ(エレノア)が王子様になってる」
「気にするな、これでイベント『婚約者の絆』は形式上クリアだ。あとは2時を待つだけだ!」
だが、ダンスが終わり、エレノア(中身ギルバート)がフロアを退場する際、すれ違いざまに用務員のまことの耳元で、女の妖艶な低音ボイスでこう囁いた。
「……後で校舎裏に来い、渡辺まこと。私とお前の『泥水の決着』をつけようではないか」
「え、俺、女のガワの殿下に放課後呼び出されたんだけど……」
まことの背中に、かつてない戦慄が走った。
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#悪役令嬢
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