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喫茶店は母上が行きたいところがあるそうなので、そこへ向かった
母上曰く、今、一部の貴族たちの間で話題の喫茶店らしい。
パンケーキが美味しいお店とのことだ。
店内に入ると貴婦人や平民の女性たち、カップルのお客さんが多くいた。
他国では知らないけどグラディオン王国では貴族と平民が同じ店を利用するのは珍しくない。
別に良好というわけではなく、互いに気にしていないだけ。平民は貴族に対して視線を合わせようとしない。問題事を起こさないようにする。
貴族も酷い言い方になるが、いない存在として扱っている感じだ。
互いが刺激し合わないように適度な距離感でいる。
よく見れば店も貴族と平民の客ではスペースが離れている。
店側もそういった配慮をしているのだろうな。
よくあるラノベ世界だと貴族は平民を人間扱いしないみたいな表現をされることがあるが、どうやらお互い不干渉を意識しているらしい。
まぁ、家柄によっては立場関係ないところもあるようだが。
ま、僕も立場は気にしないけど、あちらが関わりたくないのなら気にしないに限る。
そんなことを思いつつ、僕は母上と席に座る。もちろんエスコートのため、母上を先に座らせる。
「このパンケーキが美味しいらしいのよ」
「なら、僕も同じものを」
「紅茶はどうする?」
「……ダージリンですかね」
「いい組み合わせね……私もそれにするわ」
いちごのパンケーキがおすすめらしい。
僕と母上は同じものを注文した。
店員さんに注文して、10分ほどで持ってきた。
ここでもあるマナーがあるとしたら、お皿にソースを残してはいけない、頬張って食べてはいけない。切るときは一枚ずつ……だったな。
ソースはパンケーキで拭いながら食べる。
最後食べ終わった時には綺麗にするのがマナー。
「……美味しかったです」
「うふふ、そうね。また来ましょうか」
気がついたら食べ終わっていた。
いや、疲れに染みるんだよ。
うますぎる。
「今度は父上も誘って三人で行きましょう」
今度はこの買い物に父上も道連れにしてやる。
わかってて来なかったんだ。
馬車に向かう時に言っていた言葉も僕の好物を用意すると言ったのも全部これが原因だろう。
疲れて帰る僕への声援と労いってところか。
そんなことを思っていると母上が話しかけてくる。
「それもいいわね。アレンはまた来たいと思うくらい気に入ったのね」
「はい」
「なら、今度アレイシア様と一緒に来てはどう?」
考えもしなかった。
いや、思いつかなかった。確かにここの店なら女性も好きそう。
確かにここならアレイシアは気にいるかもしれない。
「でも、アレイシア嬢が甘いもの好きかどうかは」
「なら、今度のお茶会で直接聞いてみたらいいと思うわ。大丈夫そうなら次会う機会でデートに誘ってみたら?アレイシア様は少し気難しい方と聞いているし、仲良くなりたいなら出かけた方がいい場合もある。その方がお互いよく知れると思うし」
「……母上もしかして」
今日僕にエスコートをお願いした理由。
ここのお店に連れてきたこと。
ついでに食事や喫茶店で所作の確認、女性の扱いについての指導。
今後の教訓になるように指導してくれたのか。
「さぁ、何のことでしょう?」
母上は笑顔でわざとらしく惚ける。
……こんな意図があったとは。
今日はいわば予行練習だったようだ。
女性とデートした時を想定して。
「ありがとうございます」
僕はそう返したのだった。
「感謝される事はしてないわよ。でも、初めてにしては上出来だったわ。……2つを除いて」
「母上のお墨付きを……え?」
あれ……急に雲行きが……母上は笑顔のはずなのに怖い。
え、なんかしました僕?
「忘れたなんて言わせないわよ?確かアレンは私に2回も失礼なことをしたわ。覚えてない?」
「な……何かしましたか?」
「屋敷で馬車に乗る時……私のネックレスを選ぶ時」
場所を指定されて記憶を遡る。
『身長差と体重差があるので一人で乗った方が安全では?』
『いや、母上に乙女心って無理ありません?』
……あ。失言のことか?
「女性の扱いはまぁ、及第点かもしれないわ。でもね。女性への気遣いは落第点よ」
「あ…えと」
「いい?……次からはないわよ?」
「……はい」
とりあえず、母上は許してくれたそうだ。
今後は女性への気遣いは注意しようと思った。
その後は服屋へ赴き三着ほど新しいものを購入した。
全て終わったかと思い、安心しているとふと帰りの途中で大切なことを思い出した。
「母上、最後に申し訳ないのですが、アレイシア嬢への贈り物買うの忘れてしまいました」
「何にするか決めたの?」
「花束を贈ろうかなと」
用品店ではアロマキャンドルは置いていなかったし、やはり花がいいと思った。
「ここの通りを進むとお花屋さんあるけど注文だけしていく?」
「……そうします」
そう言って最後に寄り道した。
注文したのは青い薔薇。
綺麗だし、アレイシアの髪色と同じだから無難かなと思った。
こうして長い長い1日が終わった。
その日食べたハンバーグは人生で一番美味しかった。