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出かける支度をした私たちは、歩いて十分の距離にある新宿伊勢丹へ向かった。
事前に連絡がいっていたのか、お店に入ると外商部の人がすでに待っていて、そのまま裏側の通路とエレベーターを使ってVIPルームへと案内された。
高級感のあるソファセットのある空間には、すでにジュエリーが何種類も並んでいた。
けれど事前に「シンプルな物」と言ったからか、ダイヤモンドが幾つもついたキラキラゴージャスな物は少ない。
「オフの日だし、シャンパンもらっちゃおうか」
ソファに座った涼さんは、悪戯っぽくウインクして尊さんに言う。
「お願いします」
尊さんはスタッフさんに会釈し、「朱里はどうする?」と尋ねてくる。
「えっ? カフェ?」
待て、私。カフェでシャンパンは出ない。
よく分からなくて混乱していると、スタッフさんは「一通りの物はお出しできます」と微笑んだ。
私と恵は困って視線を合わせ、探り合うようにお互いの表情を窺う。
「……じゃ、じゃあ……。オレンジジュース」
「わ、私も!」
「かしこまりました。どうぞ、商品をご覧になってお待ちください」
この場の責任者らしき人が言うと、別の人が動いて飲み物の用意をしに行く。
「恵ちゃん、せっかくだから見ようよ」
「あ、はい……」
ルンルンした涼さんに言われ、恵は気の進まない表情で立ちあがる。
私と尊さんも一緒に商品を見る事にしたけれど、全部値段が書いていないから、何を選んでも恐い。
恵も私と同じ感想を抱いているようで、商品ケースから距離をとって、おっかなびっくり見ていたけれど――。
「……あ、可愛い」
彼女が足を止めたのは、ティファニーの商品ケースの前だ。
しかも指輪ではなくバングルで、U字になっているホワイトゴールドの側面にメレダイヤがついている物で、カチッと留めるタイプのデザインだ。
「バングルいいね! さすが俺の恵ちゃんだね。見る目あるね!」
ニコニコ笑顔の涼さんは、その場にあるバングルを全部買い占めそうな勢いだ。
「……可愛いね」
私がそのバングルを見てうんうんと頷くと、恵は道連れを作ろうとする表情で、私の腕を組んできた。
「あっ、朱里、お揃いのバングルにしない? 色違い」
「恵、涼さんがツチノコを踏んづけたような顔をしてるよ」
「どんな顔。逆に見てみたい」
恵はスンッと真顔になり、涼さんのほうを見ると、非常に冷静に言った。
「どっちかっていうと、キャトルミューティレーションされてる牛を見た顔だよ」
「涼はいつからオカルト属性になったんだ?」
堪らず尊さんが突っ込みを入れ、私はスッと目を細めると彼に言う。
「ヨーウィー」
「マイナーすぎて分かんねぇよ。……てか、中村さんまでオカルト好きとは思ってなかった」
「朱里とお泊まり会したら、録画してるそういう番組見て盛り上がるんです」
「ねー」
恵と顔を見合わせて頷き会うと、涼さんが拗ねる。
「だからさぁ、ハイジュエリーの前でUMAの話するのってどうなのぉ?」
プリプリ怒った涼さんは、恵が選んだバングルのシンプルバージョンを指さす。
「俺、これ! 朱里ちゃんが恵ちゃんの色違いになるなら、俺と尊が色違いになるんだろうけど、いいよ、もう! 禁断の薔薇族になる!」
「お前もいい加減古いよ。朱里、色は? ゴールドか、ピンクゴールドか」
尊さんは涼さんにサラッと突っ込んだあと、私に尋ねてくる。
「じゃあ、ピンクゴールド」
「すみません、ピンクゴールドのこれとこれ、お願いします」
「かしこまりました」
私たちがアホな会話をしている間も、外商部の方々はニコニコと笑みを絶やさない。さすがプロだ。
「リング、バングルと同じデザインのあるけど、お互いこれはあえて外しておこうか」
「だな」
涼さんに提案され、尊さんは頷く。
「朱里、気に入ったリングあるか?」
「ん? んー……」
怖い物(ジュエリー)の前で私と恵は、お互いを守り合うように腕を組み、身を寄せ合ってリングを見ている。